約 525,945 件
https://w.atwiki.jp/nanoharow/pages/621.html
H激戦区/人の想いとは ◆gFOqjEuBs6 このデスゲームに於いて、ホテル・アグスタという施設は比較的幸運な方だったと言える。 では、何が幸運なのか。その答えは、他の施設を見れば考えるまでも無く導き出されるだろう。 何と言っても、このホテルは未だ無傷。つい先程まで、誰もこの場所で戦闘を起こそうとはしなかったからだ。 しかし、いつまでもそんな幸運が続きはしない。このホテルにも、破壊の魔の手が迫っていた。 「このっ!」 少女の叫び声と共に、緑の脚が一直線に振り下ろされた。 しかし、緑の脚が標的を捉えることは無く、振り下ろされた踵落としはテーブルを砕いただけだった。 ど真ん中から真っ二つに砕かれたテーブルを蹴って、仮面ライダーキックホッパーは跳ぶ。 標的は、ちょこまかと回避を続ける漆黒の仮面ライダー、カリス。 宙に浮かび、キックの体勢を作るが―― 「うわっ……!?」 カリスアローから放たれた数発の青白い光弾によって、体勢を崩されてしまう。 空中で姿勢を崩したキックホッパーは、そのまま下方へと落下。 したたかに身体を打ちつけるが、そこは仮面ライダーの装甲だけあって装着者へのダメージは無い。 すぐに立ち上がり、構えを取るが――すぐに、後方から羽交い絞めにされる。 「やめてくれ、かがみさん! 俺達は君に危害を加えるつもりはない!」 「なら黙って殺されなさいよ! あんた達全員殺して、私も死ぬから!」 「なんでそうなるの! そんな事言われて、黙ってハイなんて言える訳ないだろ!?」 ヴァッシュ・ザ・スタンピードが、仮面ライダー相手に肉弾戦を仕掛けたのには訳がある。 自分が今装備している武器は、アイボリーとエンジェルアームズのみだ。 アイボリーは残弾5発。しかし、仮面ライダーの装甲には弱点はおろか、目立った亀裂すら見当たらない。 例えばライダーの装甲を解除させる一点を発見するとか、そんなチャンスが到来するまでは残り少ない弾を使う事は避けたい。 そして、エンジェルアームズ。これには、アイボリーよりもキツいリミットが掛っている。 プラントとしての能力を行使すればするほど、ヴァッシュの髪の毛は黒くなって行く。 やがて全ての髪の毛が黒くなった時、ヴァッシュはこの世から消滅してしまうのだ。 既に九割が黒髪化している今、残ったエンジェルアームズは温存していきたい。 そして、もう一つの理由。 「もう、離しなさいよ! セクハラで訴えるわよ!」 「訴えるのはいいけど、その為にはまず生きてくれ!」 我武者羅に腕を振り回し、ヴァッシュを振り払おうとする。 そう。仮面ライダーキックホッパーは、言い分だけでなく、戦闘スタイルも滅茶苦茶なのだ。 油断さえしなければ、戦闘においては素人同然のかがみに負ける事はまず無いだろう。 とりあえず賞金首として扱われていた時期もあったヴァッシュにとっては、セクハラで訴えられるくらいどうって事はない。 いや、出来れば訴えて欲しくは無いが、それ以前にかがみが生き残る事が出来るかが問題なのだ。 それに何より、一度でも会話を交わしたかがみにこのまま死んでほしくは無い。 スバルはスバルで、どうやらカリスと話があるらしい。だからヴァッシュは、かがみを優先して止める事にしたのだ。 キックホッパーに向けて光の矢を放ったカリスへと、素早い回し蹴りを叩き込む少女が一人。 スバル・ナカジマだ。骨折した左腕は使い物になりはしない。故に、使えるのは右腕と脚のみ。 幼い頃からストライクアーツを習得して来たスバルにとって、左腕を使えないと言う状況が如何に不利かは十分過ぎる程に分かっている。 先程のヴァッシュ戦では、極度の怒りと興奮で痛みは感じなかったが、一旦熱が引いた今となっては話は別だ。 固定された状態の左腕は、スバルにとって足かせでしか無い。かと言って無理に動かそうとすれば、左腕に激痛が走る。 当然だろう。内部フレームからへし折られてしまったのだ。応急処置程度で前線に戻れる程、戦闘は甘くは無い。 「仮面ライダー! 貴方はゲームに乗ってるんですか!?」 「乗っていると言ったらどうする」 「止めてでも、ギン姉の事を聞きだして見せる!」 駆け出したスバルが右脚を振り上げ、ハイキックを繰り出す。 IS・振動破砕を発動してのハイキック。入れば、それなりのダメージは望める。 ……筈なのだが、そう上手く事が運びはしない。 スバルのハイキックは、カリスの左腕によって容易く払われてしまう。 (効かない……!?) 「無理だ。そんな身体で、俺を止める事は出来ない」 カリスの言う事は正しい。 いくら振動破砕を発動しているといっても、今のスバルではハンデが大きすぎる。 何せスバルは現在、左腕が固定されているのだ。そんな状況でのハイキックに意味等無い。 本来、パンチやキックと言った打撃系攻撃は、身体全体を使って打ち出す攻撃だ。 決して乱れぬ精密なフォームがあって、初めて打撃系攻撃は力学的な威力を生み出すのだ。 そのフォームが乱れたとあれば、いくらプロの格闘家であろうと威力を出す事は難しい。 それ程にフォームという物は重要なのだ。 ましてや、それが乱れるだけで威力が半減する打撃系格闘技に於いて、左腕が使えない等問題外だ。 左腕無しで本来のバランスを保った状態でのキックなど打てる訳が無いのだ。 仮に左腕に痛みを走らせないよう、無理して打撃を放ったところで、その攻撃に威力は無い。 多少の打撃は覚悟しているであろう相手に……それも仮面ライダーに、そんな状態の攻撃が通用する訳が無いのだ。 それくらいは格闘技をやっているものならば子供でも解る事。 ましてやスバルともなれば、この状況が如何に不利かなど考えるまでも無い。 だけど、それでも止まってはいられないのだ。 「無理じゃない! ギン姉に何があったのか、聞かせて貰うまで私は退かない!」 「ならば教えてやろう。ギンガは殺し合いに乗った俺を救い、死んだ!」 「え……!?」 驚愕と同時に、一瞬だけ動きが止まってしまう。 その一瞬は、カリスにとっては無限にも等しく感じられる、攻撃の瞬間。 漆黒の装甲に包まれた右脚を突き出し、スバルの胸を強打。 蹴りつけられたスバルは後方へと吹っ飛ばされ、その身体を壁へとしたたかに打ちつけた。 「ぐぁ……ッ」 「馬鹿な奴だ! 俺なんかの為に、奴は死んだ! 俺なんかの為に……!」 カリスの声が、震えていた。 まるで、行く先を失った怒りをぶつけるように。 どうしようも無い悲しみを吐き出すように。 先程まで戦う事しか考えない戦闘マシーン同然だったカリスの声が、震えていたのだ。 その声色の変化を、スバルは見逃さなかった。 ふらふらと立ち上がり、緑の視線でカリスを捉える。 その瞳に浮かべるのは、姉にかける想い。姉の想いを踏みにじらぬ様に。 姉に救われ、姉の想いを託されたであろうカリスに、それをぶつける。 「ギン姉は馬鹿じゃない! ギン姉が、無駄な命を救う訳が無い!」 「何を言ってももう遅い! 俺は戦う事でしか、他者と分かりあえない!」 言うが早いか、醒弓を構えたカリスが駆け出した。 刹那の内にスバルの間合いまで踏み込み、その刃を振り下ろす。 命中すれば、首が跳ね飛ぶ。それ即ち、間違いなく即死だ。 されど、スバルは微動だにしない。決して臆さず、決して逃げない。 瞳逸らす事無く、真っ直ぐにカリスを見据えた。 「まだ遅くなんかない! 貴方は、せっかくギン姉に救われた命を、こんな下らない戦いに使うつもりなの!?」 腹から絞り出すような怒号。 醒弓の刃は、スバルの喉元を掻き切る寸前に、止まった。 震える刃。震える腕。ほんの僅かに、カリスの身体が震えていた。 カリスが何を思ったかは、スバルにも分からない。 だけど、カリスがすぐに自分を殺せなかったのは、大きなチャンスだと思う。 「だから! 私は貴方を止めて見せる! 戦うことでしか分かりあえないなら、戦ってでも話を聞かせて貰う!!」 「な……ッ!」 上体を低く屈め、僅かに左脚で壁を蹴った。 僅か一瞬で、腕を突き出したままのカリスの懐へと跳び込んだ。 だんっ! と、左足で地面を踏み締め、太腿で壁を作る。腰を捻って、肩を入れる。 左足で踏み締めた運動エネルギーをそのままに、流れる様なフォームで、上体まで伝える。 今持てる全力を尽くして、ISを発動。拳を回転させながら、真っ直ぐに突き出す。 同時に、ジェットエッジで一瞬だけ加速を生み出した。突き出された拳に、ジェットエッジによる加速が加えられる。 それは、左腕が使えない今、この状況を最大限に活かして繰り出した渾身の右ストレートだった。 「――ぉぉぉぉぉぉぉっぉりゃぁぁぁぁぁッ!!!」 「が……ァ……!!?」 カリスの腹部……ベルトと胸部装甲の間の、比較的装甲の薄い箇所。 そこを目掛け、全力を込めた振動破砕を、全力を込めた右の拳を叩き込んだ。 流石のカリスと言えど、この一撃を受け切る事など不可能だ。 カリスの装甲を通じて、不死生物の体内まで、振動派が叩き込まれる。 その威力は尋常ではなく、かなりの体重差を持ったカリスを、数メートル後方まで吹っ飛ばす程だった。 ◆ 月明かりを閉ざす雷雲が空を埋め尽くし、地上は漆黒の闇に閉ざされていた。 人口の明かりが無くなったこの空から聞こえるのは響く様な雷鳴。 たまに周囲に落下する青白い稲妻だけが、木の影に隠れた金居とはやての顔を照らし出してくれた。 はやては思う。この状況、どうするべきが正解なのだろう? (ようやく見付けたスバルを、こんなとこで失いたくは無い……かといって、無策にあの乱戦の中に入る訳にはいかへん。 スバル達はまだエネルに気付いてないみたいやし……あかん、このままやったら皆エネルに殺されてまう……!) エネルとの戦いか、仮面ライダー同士の戦いへの介入か。 出来る事ならば、スバルだけを味方として獲得し、そのままエネルに気付かれる事無く何処かへと逃げ去りたい。 しかし、それをするにはあのライダーバトルの真っただ中に介入せねばならないのだ。 今の戦力で無策にあの中に入るのは自殺行為に等しいし、かといってエネルとの戦いは論外だ。 幸い、まだエネルはこちらには気付いていないようだが…… 「金居さんは、現状をどう思いますか」 「ジョーカーとあの仮面ライダーだけならまだしも、あの雷男まで相手にするのは御免被りたいな」 金居は金居で、エネルの脅威については本能的に感じ取っているらしい。 だが、その言葉は同時に金居の戦闘力のレベルを窺い知るためのヒントにもなり得る。 金居は「あの黒のライダーと緑のライダーの二人までなら戦える」と、そう言ったのだ。 キングとは違い、冷静な金居がただの自信だけでものを言うとも思えない。 つまり、金居の戦闘力はそれなりのものという事だ。 (それなら、この男もまだここで失う訳にはいかへんな) 出来る事なら、金居をキープしたままでスバル(とその仲間?)の戦力を確保したい。 その為にも、スバルと交戦しているあの黒のライダーを確実に倒して、先に進みたい所だ。 だが、それをする為にはやはりエネルがネックになる。この分じゃエネルがホテルに到達するまでに時間はあまりかからない。 エネルがここに来るまでに、何とか状況を変えたいが…… 「おい、八神」 「何ですか?」 「あれを見ろ」 森林に多くそびえ立つ木々の影から、金居がそっと手を伸ばす。 その先にいるのは、雷光に照らし出された神・エネル。そして、その奥にもう一人。 漆黒の騎士甲冑は、まるでなのはのバリアジャケットをそのまま黒くしたようなイメージを抱かせる。 サイドポニーに纏めたプラチナブロンドの髪が、ゆらりと揺れるその姿は、なのはに良く似ていた。 しかし、その立ち居振る舞いはなのはとは全く違う。どこか不気味な、生気を感じさせない歩み。 死すらも恐れて居ない様な足取りで、一歩、また一歩と歩を進めているのだ。 まるで死神の様な姿ではあるが、しかしはやてはその姿に見覚えがあった。 ◆ 今の一撃は効いた。 もしも万全の状態で放たれたなら、一撃で変身解除まで追い込まれていたかもしれない。 それ程の激痛を伴う一撃。まるで身体を内側からブチ壊されたような、凄まじい威力。 スバルのIS、振動破砕による爆発的な攻撃力によって、カリスの身体は吹き飛ばされた。 硬いコンクリートの床に叩き付けられたカリスの身体は、思う様に動かない。 アンデッドの回復力をもってすれば、これくらいはすぐに回復出来るだろうが……今すぐに戦線復帰するのは、少し厳しい。 赤い複眼を持ち上げて、こんな芸当をやってのけてくれた娘に視線を向ける。 「もう止めて下さい……手応えは確かに感じました。貴方はこれ以上戦えない!」 「貴様……、あくまで俺を殺さないつもりか……ッ!」 「ギン姉に救われた貴方の命を、妹の私が奪う事は出来ない…… だから、聞かせて貰う! ギン姉と貴方の間に何があったのかを!」 真っ直ぐな瞳で、真っ直ぐな想いを自分へとぶつけるこの女。 ああ、やはり見覚えがある。つい数時間前まで一緒に居た、何処までも強い女と同じ目だ。 その後に出会った浅倉威にも、柊かがみにも、ギンガと同じ意志の強さは感じられなかった。 この殺し合いで、もうあんな人間に会う事は無いだろう。会ったとしても、関わる事はないだろう。 そう思っていたが、運命とは何と皮肉な事だろう。 この短時間で、再びこの瞳に出会ってしまうとは。 「……これから殺す相手に教えても、意味がない」 「まだそんな事を……!!」 言ってはみたものの、今すぐに再び立ち上がってスバルを殺す事は、無理だ。 何よりも振動破砕の威力が大きすぎる。この身体がアンデッドのものでなければ、どうなっていたか分かった物じゃない。 そして第二に、この女の目を見ていたら、この女の言葉を聞いていたら、ギンガを思い出してしまう。 それが研ぎ澄まされつつあった闘争本能を、内に潜むジョーカーの感覚をどれだけ鈍らせる事か。 同時に、ギンガ達の存在が自分の闘争本能を鈍らせると自分自身で理解出来てしまうのが、どうしようもなく悔しかった。 「殺されるのが嫌なら、俺を殺せ。そうすれば、全て終わりだ」 「そうやって、逃げるんですか!?」 「何、だと……?」 逃げる? こいつは一体何を言っているんだ。 最強のアンデッドたるこの俺が、一体何時、何から逃げたというのだ。 ハートの複眼に捉えるは、決して鈍らない信念を瞳に宿したスバルを捉える。 その目は何処か怒っているようで、不思議な気迫を感じさせた。 「嫌な事から、怖い物から、戦わずに逃げる事は簡単だよ。でも、それじゃダメなんだ! 戦う事を止めて逃げてしまったら、そこで終わりだ。そんなの、私は絶対に嫌だ!」 「俺が何時逃げようとした」 「死んだら終われるとか、殺されたら自分の責務から解放されるとか…… ギン姉に貰ったたった一つの命を、そうやって投げ出して終わらせるつもり!?」 スバルの怒号に、カリスは言い様のない憤りを感じた。 何と一方的な言い分だろうか。何と一方的な正義だろうか。 それを押し付けられる側がどんな気持かなど、こいつは知らないのだろう。 しかし、そう感じる心はまさしく人間としての憤り。 それに気付く事も無く、カリスは自分の思いを吐き出す。 「お前に何が解る……俺は人間でも無い、アンデッドでもない。俺を知っているのは俺だけだ……! だから言えるのだ! 俺の苦悩、お前などに解りはしないと!」 「わからないよ! 当然でしょう、貴方は何も話そうとしないじゃない! ……それに、人間じゃないのは貴方だけじゃない! 私だって、ギン姉だって……!」 何だと……? ギンガは人間では無い? その妹のスバルも、人間では無い? だが、それは可笑しい。ギンガは自分に言った筈だ。「貴方は人間だ」と。 人間でもない奴が、同じく人間では無い身の自分の人間らしさを証明する? なんと滑稽な話だろう。それで命まで落としてしまったのでは、話にならない。 理解出来ない。ただでさえ馬鹿だと思っていたギンガが、余計に理解出来なくなる。 「人間じゃない……だと……? だがギンガは、化け物の俺を人間だと言った…… そのギンガが人間じゃない……? いや……」 始は思う。それは違う、と。 誰よりも意志の強かったギンガは、何処までも人間らしかった。 そして、誰よりも人間らしかったギンガが、自分を人間だと言ってくれたのだ。 あの優しさは、紛れも無く人間のものだ。 紛い物の自分とは違う、本物の人間の優しさだ。 だからこそ言える。だからこそ断言できる。 「違う……ギンガは人間だ……誰が何と言おうと、奴は人間だった……!」 「それなら、貴方も人間だ! そんなことを言える貴方が、化け物の訳が無い!」 「無理だ! 俺には人間が理解出来ない……ギンガの考えが、理解出来ない!」 問題は凄く単純な事だ。 ギンガの考えが、始には理解出来なかった。 ギンガの行動が、始には理解出来なかった。 何故あの女は、見ず知らずの自分を助けたのだろう。 何故、殺し合いに乗った自分なんかの為に命を投げ出したのだろう。 誰が聞いたって、馬鹿な生き方だ。とても上手い命の使い方とは言えない。 始の心を、無数の「何故」が埋め尽くして行く。 「何故だ……何故……!」 考えれば考える程、頭がパンクしそうになっていく。 ああ、何故目の前の女はこんなにもギンガに似ているのだろう。 守りたいものとか、人間の心とか、そんな綺麗事を並べて戦えば、生物は弱くなる。 生きるか死ぬか、命を掛けた戦いにそのような面倒事は一切不要なのだ。 ジョーカーである自分はそれを最も良く理解している、筈なのに……。 「何故、ギンガは……!」 だが、ギンガはその方程式には当て嵌らなかった。 あの女は誰よりも強く、そして誰よりも気高かった。 戦いに負けたとか、他の誰かよりも戦闘力で劣っていたとか、そういう事じゃない。 自分には無い物。浅倉にも、かがみにも無い「強さ」を、ギンガは持ち合わせていた。 それは目の前の少女――ギンガと同じ目をした少女にも言える事だ。 この強さは何だ? この強さは何処から湧いてくる? 「わからない……わからない……わからない……!」 「ギン姉は――」 ――CLOCK UP―― 「――ぇ……?」 刹那、電子音声と同時に、スバルの身体が吹き飛んだ。 左腕を封じられていたスバルの身体は見事に宙を舞い、そのまま吹っ飛ばされる。 告げようとしていた言葉は結局告げられる事は無く、無限にも等しい刹那の中で、スバルの身体はコンクリの床を転がった。 カリスの頭の中で、何が起こったのかを理解するよりも先に、言い様の無い感情が湧き起こった。 そうだ。この感情と似たものを自分は知っている。 確か、ギンガが死んだ時の……。 Back 絶望の暗雲 時系列順で読む Next H激戦区/ハートのライダー Back 絶望の暗雲 投下順で読む Back きみのたたかいのうた(後編) ヴァッシュ・ザ・スタンピード Back きみのたたかいのうた(後編) スバル・ナカジマ Back きみのたたかいのうた(後編) 相川始 Back きみのたたかいのうた(後編) 柊かがみ Back きみのたたかいのうた(後編) ヴィヴィオ Back Round ZERO ~GOD FURIOUS 八神はやて(StS) Back Round ZERO ~GOD FURIOUS 金居 Back Round ZERO ~GOD FURIOUS エネル
https://w.atwiki.jp/tvsponsor/pages/50.html
群馬テレビ 自社制作番組 ひるポチッ! - ニュースジャスト6 (月~金) 富士スバル 群馬トヨペット JA東日本くみあい飼料 群馬県食肉卸生産市場 JA全農ぐんま+曜日別 (月) ぐんま共済協同組合 サン・エンジニアリング 群馬トヨタ (火) オネスティーハウス石田屋 峰岸自動車 システムアルファ 太陽自動車 (水) ぐんま共済協同組合 群馬トヨタ (木) オネスティーハウス石田屋 峰岸自動車 システムアルファ トヨタカローラ群馬 (金) ぐんま共済協同組合 トヨタカローラ群馬 群馬トヨタ (土) 富士スバル、群馬トヨペット (日) 富士スバル、冬木工業、岩野商会 ニュースeye8 (月~金)ヤマダ電機、富士スバル、オネスティーハウス石田屋、群馬トヨペット、 (月・水・金)群馬日産 (月・水)ソウワ・ディライト、サンデン (月・木)群馬銀行 (火・木)ケービックス株式会社、みまつ食品餃子工房 (金)舌切り雀のお宿:ホテル磯部ガーデン SATURDAYニュースジャスト 富士スバル、群馬トヨペット、株式会社岩野商会 SUNDAYニュースジャスト 群馬トヨペット、冬木工業、Farmdo 食の駅 ぐんまトリビア図鑑 群馬銀行 カラオケチャンネル ヤマダ電機、高橋農園、大久保音楽事務所、株式会社 成瀬塗料、埼玉本庄タカハシ自動車(株)、ゴダイ、トヨナガ自動車販売、ジャパンライフ ビジネスジャーナル 群馬銀行 J2 ザスパ草津サッカー中継 ALSOK群馬綜合ガードシステム(株)、群馬トヨペット、群馬銀行、上毛新聞社、Beisia ポチッとくん体操 (日)群馬トヨペット、オネスティーハウス石田屋、ネッツトヨタ群馬 高校野球中継 赤城自動車教習所グループ、群馬トヨペット、栗原モータース、ホンダカーズ群馬、未来学園グループ、群馬自動車大学校、マツダオートザム太田 終了番組 ニュースジャスト930(~2012.03) (月~金)JR東日本くみあい飼料、群馬県食肉卸売市場、JA全農ぐんま (月・水・金)高崎信用金庫、アイオー信用金庫、館林信用金庫、しののめ信用金庫、桐生信用金庫、利根郡信用金庫、北群馬信用金庫 (火・木)株式会社アビリティジャパン、ケービックス株式会社、みまつ食品 来来飯店(~2010.12) オンフルール(エステサロン)、尾瀬岩鞍ゆり園
https://w.atwiki.jp/animesongs/pages/3705.html
まよチキ! TVアニメ「まよチキ!」エンディング主題歌 君にご奉仕 歌:近衛スバル(CV.井口裕香)、涼月奏(CV.喜多村英梨)、宇佐美マサムネ(CV.伊瀬茉莉也) まよチキ!「君にご奉仕」(Amazon) 発売元・販売元 発売元:キングレコード株式会社 販売元 発売日 2011.08.10 価格 1143円(税抜き) 内容 君にご奉仕 歌:近衛スバル(井口裕香)/涼月奏(喜多村英梨)/宇佐美マサムネ(伊瀬茉莉也) Wonderful Days 歌:近衛スバル(井口裕香)/涼月奏(喜多村英梨)/宇佐美マサムネ(伊瀬茉莉也) 君にご奉仕(off vovcal ver) Wonderful Days(off vovcal ver.) 備考
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3633.html
10:アギト、アギトへの覚醒編 リインフォースⅡ・アギトはたった二人でヴィータ・シグナム・スバル・ティアナの四人を食い止めるべく奮戦していたが、 それでも力及ばず、劣勢に立たされていた。 「ほら言わんこっちゃ無いじゃないか! お前達二人があたし達に敵うか!」 「最初から敵うなんて思ってないです!」 「あいつ等が百合ショッカーぶっ潰すまでお前等引き付けとく時間さえ稼げればそれで良いんだ!」 リインとアギトはヴィータの振り回すグラーフアイゼンを何とかかわしながら、各々の得意とする氷・炎の壁で 四人の進撃を食い止めようとする。しかし、氷の壁は砕かれ、炎の壁は振り払われてしまう。 そしてレヴァンティンを抜いたシグナムがアギトへ接近する。 「アギト…私は失望したぞ…。」 「失望したのはこっちだよ! 百合ショッカーなんかに頼ってリリカルなのはシリーズ人気守ろうとするなんてよ…。 そんなに自分自身の力が信じられないのかよ! だから今ここであんたを焼き殺してやる!!」 アギトは渾身の力を込めた炎をシグナムへ浴びせ、シグナムの全身が炎に包まれた。 「ハハ…やったか。」 アギトは勝利を確信したが…炎が晴れた時、そこにあったのは焼け焦げたコタツだった。 「な! まさかこれが噂に聞く空蝉の術!?」 「アギト後ですぅぅぅぅ!!」 「!?」 リインの叫びも空しく、次の瞬間背後に回り込んでいたシグナムの一撃がアギトに決まり、アギトは思い切り壁に打ち付けられていた。 「うっ!!」 「アギト!」 壁に打ち付けられた後で倒れるアギトに駆け寄ろうとするリインだったが、それもティアナの射撃によって妨害されてしまった。 「アギト…残念だ…。」 シグナムはレヴァンティン片手にアギトへ歩み寄る。そのままトドメを刺すつもりらしかった。 アギトは必死に起き上がろうとするが、ダメージの為に全身が痛くて息をする事さえ上手く出来なかった。 「(畜生……あたしは…また守れねぇのかよ…ゼストの旦那だけじゃねぇ…リインも…あいつ等も…何も守れねぇのかよ…。)」 『力が欲しいか?』 「(?)」 突然何者かに話しかけられた様な感覚をアギトは感じていた。そして彼女はある事実に気付く。 それは何時の間にかにアギトの正面に白い服を着た光り輝く青年の姿があった事である。 『力が欲しいと言うのならば、一時的に私の力を与えても良いと思っている。』 「(欲しい! 力が…力が…。例え今この瞬間だけだったとしても…力が欲しいんだ!)」 アギトは心の中で必死に叫んだ。そんな事をしても無駄かもしれない。そもそも今アギトの目の前にいる 白い服の青年自体が死に掛けのアギトが垣間見た幻かもしれない。頭ではそう分かっていても、叫ばずにはいられなかった。 『そうか…ならば与えよう…アギトの力を…。』 「(え? アギト…?)」 『目覚めよその魂…。』 白い服の青年はアギトに対し不思議な光を浴びせると共にその場からフッと消え去った。 そして彼の言い残した『アギトの力』と言う言葉の意味が理解出来ずにいたアギトだったが、 彼の発した光を浴びると共に不思議な力が沸き起こって来ていた事を感じていた。 シグナムは未だ倒れたままであったアギトへレヴァンティンを向け、今まさに突き刺さんとしていたが、 その直後だった。突如としてアギトの全身が光り輝き、その眩い光のあまりシグナムは思わずたじろいでいた。 「何だこの光は!」 余りの強烈な光に皆は目を開く事すら出来ない。しかし、その光を発しながらアギトは立ち上がり、 さらに彼女の腰にはベルト状の物体…オルタリングが巻かれていた。そしてアギトは右手を正面に突き出すポーズを取り… 「変身!」 そう叫びつつオルタリング側面にそれぞれ左右の手を当てた。その直後だった。 オルタリングの内に秘められた賢者の石からオルタフォースが放射され、アギトの姿が変わって行き、 その姿を黒・金・銀の三色を基調とした戦士へと変えていた。 「アギト…?」 「なっ…そんな……アギトだと!? アギトがアギトになりやがった!」 アギトの変貌ぶりにヴィータは思わず驚愕の声を上げていた。しかし、そんな彼女に対しスバルは首をかしげる。 「あの…一体どういう事ですか? あの子最初からアギトって名前でしょ?」 「馬鹿! そういう意味じゃないの! だから百合ショッカーから渡された資料ちゃんと読んどきなさいってもう!」 スバルの間抜けな発言にまたもティアナが怒鳴ると言う一幕が見られたが、ヴィータとシグナムは真剣な表情でアギトを見つめていた。 「百合ショッカーから渡された資料の内容が本当なら…あれはアギトだ…。」 「『アギトの世界』において万物を作りたもうた神に反逆した上級天使の一人が人間に対し与えた力…アギト…。 まさかアギトがそのアギトの力を得てしまうとは…これも百合ショッカーによる多世界同時侵攻の影響か?」 「アギトがアギトになっちまうなんて…まるでダジャレと言うか…変な冗談みたいだ。」 アギトは俗に言う所の『仮面ライダーアギト・グランドフォーム』と呼ばれる姿へと変貌していた。 それこそ『アギトの世界』における人類にとって神にも等しい超越的存在によって与えられ、人類よりも一歩先へ進化した存在。 そして、アギトにその力を与えた白い服の青年こそ『仮面ライダーアギト・津上翔一』にアギトの力を与えた『光の青年』であった。 勿論アギトは厳密には人間では無く人型のデバイスなのだが、それも超越的存在である『光の青年』にとっては関係の無い事なのだろう。 「そんなビビる事ありませんって! ただ姿が変わっただけでしょ!? 今度こそ引導渡してやりますって!」 「馬鹿! 不用意に飛び込むな!」 スバルはヴィータの制止も聞かず、アギト・アギトへ向けて突っ込み、得意の拳を打ち込もうとした。しかし… 「はっ!」 アギト・アギトはスバルの拳に合わせる様に拳で返した。確かに今までのアギトならばそんな事をしても シューティングアーツの名手であるスバルに拳ごと砕かれ弾き飛ばされるだけだっただろう。 しかし、アギトの力を与えられたアギト・アギトは逆にスバルを弾き飛ばしていたのだった。 「うあぁ! 何この力!」 「馬鹿! アギトは基本のグランドフォームの時点で平成ライダーの中でも高い部類の能力持ってるのよ!」 ティアナの指摘した通りだった。神に限りなく近い超越的存在から与えられた超越肉体を持つアギトは 単純な基本スペック面だけで考えるならば平成仮面ライダーの中でも高めの部類である。なにしろ俗に言う最強形態を含めてすら 基本形態アギトにも敵わないライダーもいたりする位である。これはスバルが弾き飛ばされるのも仕方の無い事だった。 「くそ…グランドフォームの時点でアレだぞ…。もしこのままバーニングフォームやシャイニングフォームに なられたら本当に手が付けられなくなる…。」 アギト・アギトの力にヴィータは戦慄していたのだが、それとは違う反応を見せていたのがリインだった。 「あー! 良いな良いなー! リインもあんなのになってみたいですー!」 「そうかい? なら僕が力を貸してあげよう。」 「え!?」 そこで突然リインの隣に行方不明になっていた仮面ライダーディエンドが何時の間にかに姿を現していた。 「貴方は誰ですか?」 「誰でも良い。僕は君に味方する者さ。」 ディエンドは何かのカードをディエンドライバーに差し込み、それを放射した。 『カメンライド! G3…のガワだけ!』 ディエンドはカメンライドでG3のガワだけを呼び出していた。普通ならカメンライドでライダー自身を 直接呼び出して戦わせる所なのだが、何故G3のガワだけを呼び出していたのか… 「さあこれを急いで着込むんだ!」 「ええー!?」 ディエンドがG3のガワだけをライドした理由。要はリインにG3を着込んで戦ってもらう事にあった。 そもそもG3はアギトの世界の警察が対未確認生命体用に開発した特殊パワードスーツである。 つまりただの人間でも超人的な力が発揮出来る様な仕様になっていると言う事である。 これを着込めばリインもそれなりに戦える様になる言う事にもなるのだが…リインは思わず躊躇してしまっていた。 「で…でも…。」 「君だって公僕の端くれだろう!? 良いから着るんだ! 僕も手伝ってやるから!」 「はっハイ!」 結局ディエンドに押されるままリインはG3を着込んで戦うハメになってしまった。 「じゃあ後は頑張って。」 『アタックライド! インビジブル!』 「ええー? 貴方は戦ってくれないんですかー!?」 リインにG3を貸すだけ貸してディエンドはそそくさと帰ってしまったが、もうここまで来たら引き返せない。 リインも腹をくくってG3で戦うしか無かった。 「おい…リインの奴がG3システムを装着しやがったぞ…。」 「アギトの世界の警察が未確認生命体4号…つまりクウガを研究して作り上げたパワードスーツか…。 古代ベルカ式ユニゾンデバイスとは言え、現代技術によって作られたリインにはお似合いと言えばお似合いか…。」 シグナムはご丁寧に解説してくれていたが、しかしここでまたスバルが突撃を始めていた。 「不思議な事が起こって不思議な力に目覚めたみたいなアギトならともかく、あっちはただの人間が作った鎧なんですよね!? ならここで一気に壊してみせますよ!」 「あっこら! 不用意に近付いたらダメだって!」 ティアナが止めようとするのも聞かずにスバルはG3システムを装着したリインへ向けて突撃する。 それに対してリイン・G3は自身の纏うG3システムをまだ上手く動かす事が出来ないのか 真っ向からその拳の一撃を受けてしまった。 「きゃぁぁぁぁぁ!! って…あれ…全然平気です…。」 「え!?」 スバルの拳をもろに受けているにも関わらず、リイン・G3は結構平気で衝撃で仰け反る事すらしなかった。 これには両者ともに間の抜けた顔になってしまった。 「何だか良く分かりませんけど…こうです!」 「あ!!」 今度はリイン・G3がスバルの腕を掴むと共にあっさりと投げ飛ばしてしまった。 これは普段のリインの力からすれば考えられない事であった。 「何で!? あれただの鎧じゃないんですか!?」 「全然違うぞ! G3システムはライダーとしては控えめな性能だが、それでも元々対未確認生命体用として作られてるから 常人の十倍位のパワーを出せるし、特に防御力に関してはライダー全体から見てもかなりの物を持ってる。 幾ら中身がリインだと言っても侮れないぞ!」 「そのさらに倍の性能としてバージョンアップされたG3-Xでは無かった事をむしろ幸運に思うんだな。」 G3システムは一見すると単なる全身を包み込むだけの鎧にしか見えないが、対未確認生命体との格闘戦も 視野に入れて作られており、装着者に常人の十倍近い力を与える機能も持つ。つまりただの人間であっても 怪人とそれなりに戦う力を与え得る物なのである。そしてその防御力は猛烈な速度で飛んで来た鉄球を真っ向から 受けても微動だにしない強固さと、装着者に衝撃を伝えない程の衝撃吸収力を兼ね備えている。 これがリインフォースⅡをしてスバルを力で圧倒出来た所以であった。 即席かつ一時的な物とは言え、仮面ライダーとしての力を手に入れたリインとアギト。 これならばヴィータ達とも互角に戦う事が出来る。 リイン・G3&アギト・アギト VS ヴィータ&シグナム&スバル&ティアナの第二ラウンドが今始まった。
https://w.atwiki.jp/animesongs/pages/2889.html
魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st 魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st Ticket CD SPECIAL Side N imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 発売元・販売元 NANOHA The MOVIE PROJECT 発売日 2009.08.14 価格 2858円(税抜き) 内容 プロローグ 再会 ヴィヴィオとスバル なのはとティアナ がんばって! スバルとティアナ(1) なのはママとヴィヴィオ(1) スバルとティアナ(2) 高町一家集合 なのはとフェイト なのはママとヴィヴィオ(2) 未来予想図 小さな花を 歌:高町なのは(田村ゆかり) 備考 ドラマCD付き劇場前売り券
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2738.html
第13話 嘆きと戒めのロザリオ リインが倒れて1日が経つ。リインは一向に目を覚まさない。 皆がリインを心配しているとルキノがふとあることに気付く。 「ところでヴェロッサさんは?」 「そう言えば皆が帰ってきてから見てないわ」 「どうしたんだろ…?」 リインを一番心配しているはずのヴェロッサがグランナイツの面々が帰到したのと同時に姿が見えなくなったのだ。 (ヴェロッサ……) そのいなくなったヴェロッサの身をクロノが案じる。 いなくなったヴェロッサはと言うとバイクの雷鋼馬に乗って聖王教会の庭を無尽に走っていた。 この日は雨。しかも雨脚が強くバイクに乗って走る日にしてはとても向いていない。 それでもヴェロッサはバイクを駆り出して走り続ける。嫌な気分を何とか紛らわそうとするために……。 しかしこの強い雨の中、ついにヴェロッサはバイクから落ちて地面へと倒れこむ。それと同時にバイクも横に倒れた。 「………」 ヴェロッサは仰向けになったまま自分の顔を隠すかのように腕を自分の顔の前にして笑う。 「ふふふふ、はははははははは」 その笑いはリインが倒れた時となんら変わらない不気味な笑いだった。 スバル、ティアナ、なのは、フェイトがリインの見舞いをし終えた皆はリインの事を心配していた。 「リイン、よくなるよね」 重苦しい雰囲気の中、スバルが最初に口を開けた。 「クロノの話によればリインはゼラバイアの記憶が大量に入り込んだことによる一時的なものだって言ってたけど……」 「ヴェロッサさんにクロノさん、何かあたし達に隠してるわよね」 ティアナの言う事はもっともだ。ヴェロッサやクロノが隠し事をしているのは皆前々から勘付いていたが、今回の件でそれはより明確になった。 「そう言えばドゥーエさんは?」 スバルがこの場に居ないドゥーエの事を聞こうとしたとき、シグナムが手に何かを持ってスバル達の下に来た。 「シグナムさん、どうしたんですか?」 「今ドゥーエの部屋に行ったらこんなものがあった」 それはドゥーエの置手紙であった。ドゥーエもまた教会に戻ってすぐに姿をくらましていたのだが、その理由は手紙に書かれていた。 『皆さんお世話になりましたわね。実は私はレジアスやドクター(スカリエッティ)の指示でこの聖王教会に忍び込んだ戦闘機人よ。 目的はグラヴィオンの機密データを盗み出す事。調べ終えた今私がここにいる理由はないわ。短い間だったけど楽しかったわ。多分もう二度と会うことはないだろうから言うわ。さようなら。ドゥーエ P.S. ヴェロッサの事を知りたかったら西館に行ってみるといいわ 後、ギンガをよろしく』 この置手紙にティアナは怒る。 「あの人、そういう人だったのね!」 「ティア、落ち着いて……」 スバルは怒るティアナをなだめようとするがティアナは静まらない。 「落ち着けですって! スバル、あの人はあたし達を裏切ったのよ! リインの事なんか気にしないで自分の任務を遂行して任務を終えたら帰る。 さすがスカリエッティの作った戦闘機人だわ。これに怒らないでなんて……」 ティアナがすべてを言い終わらない内にスバルはティアナの左頬を平手打ちした! 「スバル……」 「確かにドゥーエさんは裏切ったのかもしれない…。でも本当に裏切ったのなら手紙なんて書かないし、最後の言葉なんて書かないよ!」 確かにそうだ。考えてみたら何でわざわざこんな置手紙を残すのか。それは少し疑問に思うことである。 「あの人はあたしと同じ戦闘機人だよ。戦闘機人だからとかそういうの関係ないって言ったのはティアでしょ!」 その言葉にティアナはふと思い出す。スバル達が戦闘機人だと言うのを明かした時ティアナは全然気にしないと言った。 今のティアナの言葉はそれを覆すかの様な言葉なのにスバルは怒ったのだ。 「それともティアがあたしに言ったのは嘘だったの!?」 「違う!」 ティアナが強く否定した。 「あたしはあんた達が戦闘機人なんて本当に関係ない。今でもその考えは変えてないわ」 「ティア……」 「ごめんなさい、あたし興奮しててどうかしてたわ」 「いいよ、ティア」 スバルは涙が出掛かっていた目をこすって涙を拭う。 (それにチンクさんは「信じてくれ」って頼んだんだ。きっとドゥーエさんは戻ってくる。あたしは信じてるよ) 「まあこれでよしかな…」 「それはそうと最後に書かれていることが気になるね」 フェイトがドゥーエの置手紙の最後の部分を見直す。 「知りたかったら西館に行ってみるか……」 「ドゥーエにばれたとなるとお前達には話しておく必要があるようだな」 今まで黙っていたシグナムが突然口を開く。 「シグナム?」 「そうね」 今までの話を聞いていたのか、病室のドアを開け、シャマルが部屋から出てくる。 「シャマル先生」 「リインの容態は?」 シャマルが病室から出てきたのでスバルがリインの状態を聞く。 「大丈夫よ。後は目を覚ますのを待つだけ。それと今シグナムが言った事なんだけど…」 どうやらシャマルも何か知っているかのような素振りを見せる。 「とりあえず、お前達を西館に案内しよう」 シグナムがそう言い、シャマルと共にスバル達を禁断の西館へと連れて行く。 西館の入り口について、シャマルは封じらていた西館のドアを開ける。 スバル達は目の前に何らかの装置が置いてある事に気付く。この装置はヴェロッサが初めて超重剣を呼び出した装置だが、この装置には他の使い方があるのだ。 「それじゃあ、今から真実を見せるわ」 「覚悟しておけ」 シャマルが装置のキーボードに何かを入力させ、装置は起動を始め、その装置を中心に光が広がり、その光を部屋全体を包み込む。 あまりの光のまぶしさにスバル達は思わず目を瞑る。そしてスバル達が次に目を開けた時、スバル達の周りには海中が見えた。 「これって……」 「立体映像よ」 シャマルが丁寧に教えてくれた。 「でも海にいる感覚がする」 「特殊な立体映像だ。だが息も出来れば話も出来る安心しろ」 シグナムも冷静にこの映像の説明をした。 「それじゃあ本題に入るわ」 シャマルがまたキーボードに入力をする。そしていきなり海の映像からまったく違う映像へと切り替わった。 その映像はどこかの世界または別の星の上空映像だった。その上にはゼラバイアがその下にある町を焼き払う場面だった。 「ひどい……」 スバルはその映像に哀しみを覚える。 「これってどこ?」 「旧ベルカの領地世界、ランビアスとセリアスのだ」 シグナムが説明し、すぐに別の映像へと切り替わる。 次に出たのはなにやら会議場での会議場面だった。 「もはやランビアスの海域汚染は限界に達した。退避せねば我らは全滅だ!」 「我がセリアスも現状維持で精一杯だ。これ以上移民は受け入れられない…」 それはそのランビアスとセリアスと呼ばれる世界の代表達が重大な会議の真っ際中のものだった。 「これどういう事ですか?」 「ランビアスはミッドチルダとの戦争後、ベルカが滅ぶ前にミッドチルダ側と協力関係にあった為に現状を維持してたんだけど、技術が進みすぎてその世界全体が汚染していったの」 「そして同じくミッドチルダ側に協力していたセリアスに協力を仰ぎ、ランビアスからの移民を最初は受け入れたのだが、次第にセリアスもランビアスのようになってしまったのだ」 シャマルとシグナムの告げる言葉に皆黙り込む。そして会議の続きが流れる。 「待ってください!」 会議場の中心にいた一人の青年が老員達に「待った!」と呼び止める。ヴェロッサである。 次にヴェロッサは老員達にある映像を見せた。 『おお!?』 「僕達が現在開発中の創世機、『グランΣ(シグマ)』を使えばセリアスを救うだけでなく、ランビアスの汚染を食い止める!」 ヴェロッサが熱弁する。しかし老人達はそれを受け入れようとしない。 「ふふ、そんな理想論は結構だよ」 「パイロットもろくに決まってないそうではないか」 「グラシア君、君の義弟は現実が見えていないようだね」 老人達の頭は固かった。 「ヴェロッサさんがミッドチルダとは違う別の世界の人間だってのはわかったけど…」 「でもそれって普通だよね」 確かにスバルの言うとおりである。ミッドチルダには様々な世界から来てミッドチルダに住んでいる人間が数多くいる。 事実なのはもミッドチルダではなく、地球出身の人間なのだだからなんとも不思議ではない。 「気になるのはリインが何で自分の事を『リインフォースⅡ』って言ったことだけど……」 「僕の姪だよ」 声の方を振り返るとそこにはいつもの服を着ている今のヴェロッサの姿があった。 『ヴェロッサ(さん)!』 「正確には僕が妹分として可愛がってた女性があるデバイス元に作り出したデバイス。2代目の『リインフォース』だよ」 映像がまた切り替わり、今度はヴェロッサが「グランΣ」と呼ばれた機体をある男の人と一緒に整備をしている映像だった。 「残念だったな、ロッサ。もう戦争は止められないかもしれないな……」 「僕達の創世機、グランΣの…、世界をも作る力を目にすれば皆の考えも変わるはずだ! そうだろ! クロノ君」 クロノはヴェロッサの答えに微笑みで返した。 「え? あれクロノ君!?」 なのはが思わず反応した。反応するのも無理は無い。今のクロノと違い映像に出ているクロノは仮面を被っていないのだから……。 今のヴェロッサがとりあえずクロノの事は置いといて話を進めた。 「僕達の居た世界は死にかけていた。生きるには殺すしかない。そんな昔と同じ事は嫌だった。だから僕は……」 また映像が変わり今度はヴェロッサとさっきの会議場でヴェロッサの隣に居た女性との会話場面であった。 「完全な自立行動システムで、目標全てを殺戮するジェノサイドロンシステム。あんなものを使うなんて本気で思ってるんですかカリム義姉さん!!」 ヴェロッサがカリムに猛反発する。 「ランビアス数億の命が助かるのよ。自然分解して汚染も残らない」 「そのためにセリアスの数万人を犠牲にするなんて…、僕には出来ない!」 「流れる血は少しでも少ない方がいいのよ。そうは思わない? ヴェロッサ」 その答えにさらにヴェロッサが加熱した。 「自ら手を汚さず、倒した相手を見ることが無い。そんなのは機械の生き方だよ! 前の戦争もそうだったけど、これはそれよりも酷いじゃないか! これは2度と人がやってはいけないことだ!」 カリムがヴェロッサに背を向けて答える。 「私達は生き延びなきゃいけないのよ。矢は既に放たれたのよ」 「力づくでも止めます」 カリムが振り向き、告げる。 「一人の命を救えなかったあなたに何が出来るの?」 「!」 「私達が妹のように可愛がってたはやての死期を早めたのはあなたよ。理想だけ言っても結果がともなわきゃ何も意味は無いわ」 「! グランシグマーーーーーーーー!!」 ヴェロッサは怒りは頂点に達し、グランΣの名を呼び、グランΣはヴェロッサの元へとやって来た。 「創世機! いけない! コントロールが……。ヴェロッサ、あなた何をしたのかわかってるの!?」 グランΣはヴェロッサとカリムのいた部屋を破壊したが、それは「ゼラバイアジェノサイドロンシステム」の制御装置を破壊したのに等しかった。 「コントロールを失ったジェノサイドロンシステムは暴走するわ! セリアスは愚か、このランビアスにいる人の命も根絶やしにするのよ!」 その暴走は早かった。上空にいたゼラバイアの大群はすぐにヴェロッサ達のいる場所を攻撃。その他の場所も同様の被害を受けた。 「うおおおおおおおお!!」 ヴェロッサはグランΣに搭乗し、ゼラバイアの大群と戦う。 しかしグランΣはプロトタイプ。その上まだ完成しているわけではないし、ヴェロッサもパイロットとしては未熟。そして多勢に無勢。グランΣは押されていき、ビルの方に叩き付けられる。 「やはり、プロトタイプのグラヴィオンでは……」 ヴェロッサがグランΣの地面に付いた手を上げようとし、手の方を見ると手の下からは赤い血が流れていた。 そうグランΣの手が人を潰し、殺してしまったのだ。その生暖かい感触がグランΣのトレースシステムを介してヴェロッサに伝わる。 「あ、ああああ、ああああああ。人が…、人が潰れた……感触が……」 その嫌な気持ちにヴェロッサはコックピット内で吐く。 しかしゼラバイアはそんなヴェロッサの行動を待ってはくれず攻撃を再開する。 「痛い、痛いよ。はやて、こんな僕を許して…。こんなはずじゃ……」 コックピット内で両手を地面につけ、涙を流す。そして何もかも忘れたかのように叫ぶ。 「うおおおおおおおおおおおおおお!!」 グランΣが十字架のようなポーズを取り、グランシグマは輝きを見せ、それと同時に世界が消えた。 「僕達と会ってすぐにはやてが死に、僕を憎んでいた義姉のカリム・グラシアは瓦礫に埋もれて死んだ。そしてランビアスやセリアスの人も死んで僕だけがこの世界に生きていた。 『ゼラバイア』と言うのは旧聖王の名前で、ジェノサイドロンシステムに『ゼラバイア』とつけたのはその聖王の名前を込めたものなんだ」 「そうだったんだ……」 「あの質問ですけど…、『はやて』って誰ですか?」 スバルの質問はもっともだ。ヴェロッサやカリムの会話に何度も出てきた「はやて」と呼ばれる女性の正体がわからないのだ。 「彼女は……」 「我らの主だったお方だ」 シグナムとシャマルが答えた。 「八神はやて、元々なのはちゃんと同じ地球出身だったんだけど、古代ベルカの遺産、『夜天の魔導書』に選ばれた子」 「そして我らはその『夜天の魔導書』に選ばれた夜天の主を守る守護騎士『ヴォルケンリッター』。プログラムだ。しかし主はやての死に我らは何も出来なかった」 「それどころかはやてちゃんは自分が死んでも私達が残れるように最後の命を振り絞って、夜天の魔導書システム、そして自分とのリンクから私達を完全に切り離したの……」 シグナムとシャマルが涙を流しながら喋り、その涙はまだ止まらない。それほどまでに八神はやてと言う女性を慕っていたのだ。 「で、リインとはどう言う……」 「それを今から話そう」 ヴェロッサが話を続ける。ヴェロッサがミッドチルダに来てかなりの時が流れ、ある時に聖王教会の近くにある小さな飛行艇が流れ着いた。 「時を越えた?」 「脱出船の航路は自動追跡してきたようですが……、途中で事故でもあったのか彼女達の時間がまだ数ヶ月くらいしか経っていない」 その脱出船にいたのがシグナムとシャマルとザフィーラ、そしてはやてが死ぬ少し前に自分のリンカーコアを分け与え、 かつての戦争で死んだ夜天の魔導書の管制人格初代リインフォースの意志を継ぐ、ユニゾンデバイスの2代目「祝福の風」リインフォースⅡであった。 「リインフォースⅡ、あの子自身が忘れていた。あの子の本当の名前だ」 「記憶をなくしたのはそのためだったんだね。そんなつらい記憶なんて……」 スバルが思わず涙ぐむ。 「それでリインは知ってるの?」 「いや、カリム義姉さんは僕の事を教えてないだろう。僕もシグナム達に聞くまで知らなかったからね…」 「主はやてはヴェロッサにリインを姪のように可愛がってくれと最期にそう告げられた」 「リインは一人じゃなかったんだね」 「はやくよくなるといいね」 「ゼラバイアとの接触で記憶が甦ってきている。不安定の状態だから静かに見守って欲しい。これまで全てを話さなかったのは僕の弱さだ。本当にごめん」 ヴェロッサが皆に向かって頭を下げた。これはとても珍しいことだった。 「今後とも一緒に戦って欲しい。身勝手な願いだがお願いします」 確かに身勝手と言えば身勝手である。この戦いの発端はヴェロッサ。そしてスバル達のやってる事はヴェロッサの尻拭い。 本来ならスバル達が一緒に戦う義理はないのだが……。 「あなたがあたし達に頼み込むなんて、似合わないわ」 ティアナが思わず鼻で笑う。 「それにもうヴェロッサさんだけの問題じゃないしね。皆で解決しないと……」 「ということで……」 「皆協力するよ」 スバル、フェイト、なのはも協力の意志を見せる。 「ありがとう」 外に出ると雨は上がり夜であった。皆それぞれ一人になって様々な事を思っている中、なのはの所に目を覚ましたリインがやって来た。 「リイン、目を覚ましたんだ」 「ごめんなさい。お邪魔でしたか?」 リインがなのはに気を配るがなのはは気にしてないと笑顔を見せる。 「大丈夫だよ。それより外に出ていいの?」 「部屋にいると怖い夢ばかり見るんです…」 「皆心配してるよ」 「私も早く元に戻りたいです。胸がざわざわして何か思い出しそうで……、思い出せないです」 リインは自分の手を胸にやり、なのはがリインを気遣おうとする。 「苦しいの?」 「不安なんです。私は過去に何をおいてきたのだろうと…」 なのははリインの苦しみをとろうと考え、あることを考え付いてしまった。 そうそれはまだリインには早すぎることだった。 数十分後、なのはの親切を終えたリインがフラフラ歩く。 「嘘です……」 何があったのか、それはなのはの親切心が起こしたこと。なのははこともあろうにリインに真実を見せてしまったのだ! (ヴェロッサさんはリインの伯父さんみたいな人なんだよ。それにシグナムさんやシャマルさんもいる。リインには待ってくれてる人がいる) なのはの言ってた事が信じられないリインは叫ぶ。 「嘘ですーーーーー!」 その声を聞いて近くにスバルが何事かと思い、リインを捜しすぐに発見。リインのところに向かおうとしていたなのはと合流した。 「なのはさん、何かあったのですか?」 「私は喜ぶと思って……」 スバルはなのはが何をしたのかすぐにはわからなかったが、数秒後すぐにわかった。 なのはが西館の映像見せ、真実を話したのだと……。 「まさか、あれを見せたんですか!?」 スバルがなのはの胸倉を掴もうとした時、教会の中に流れる川から何かが落ちた音が聞こえた。 「リイン!? リイン!!」 スバルがすぐに飛び込み、沈んでいくリインを発見し、リインを抱いてすぐに陸に上がった。 「脈が弱まってる」 「すぐに医療室に!」 「はい!」 シャマルが先導して、リインをつれて医療室に向かう。 なのははただその様子を見て立ち尽くすだけだった。 「私は……、私は……」 「あなたには人の気持ちがわからないんですか!? 今のリインがあの映像を見たらどうなるかわからなかったんですか!?」 スバルの怒りはかつてヴィヴィオを殺しかけた時のなのはを怒った時以上の怒りを見せる。 「私だったら喜ぶと思ったから……」 それはあくまでなのは個人の考え。他の人間がなのはと同じとは限らない。プログラムであるリインであろうともそれは同じ。 「この悪魔!!」 「!!!」 なのははスバルの言葉に塞ぎ込みたいと考えた。 そしてシャマル達に運ばれるリインの目からは涙が流れていた。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/745.html
「何、これ……? ―――ッ! ロウラン準陸尉、これを!」 アルト・クラエッタが叫びと共に何かを中央ディスプレイに映す。 そこに映っていたのは人。ここに居る誰もが見たことの無い、しかし何処か見覚えのある人物。 漆黒のボディスーツを纏い右手には歪な曲刀を持った、少女と言っていい年齢の人物。 その少女は宙に浮きつつ呪文を唱える。もともと異常な値を示していた魔力値は規格外の領域へ と到達し、更に更に更に上昇する。そして少女が全身を震わせ、血が噴出した。 無様に大地へと叩きつけられ、這い蹲り、血反吐を吐き、全身から血を流し、それでも尚立ち上がり 懸命に詠唱を続ける。 少女を中心として展開される魔法陣。それはミッド式でも、ベルカ式でもない非常に奇妙なものだ。 その魔法陣は二次元から三次元へとシフトし、更に構造は複雑なものへと変異。有り得ない事が起こった。 少女の後ろに顕れたのは巨大な人影。否、影ではない。漆黒の輝きと確かな厚み、質量を持った隻 腕の巨人、永劫。 一体、誰がこんな夢想を信じられようか? しかし、これは現実であるのだ。 少女は光へと分解され、巨人へと吸い込まれてゆく。そして巨人の眸に光が点る。少女の瞳と同色、 鮮血のような赤だった。 重々しい駆動音と金属音を響かせながら、ゆっくりと立ち上がる。 誰かが息を飲んだ。 計器にはデタラメ極まる数値が示され、既に用を為していない。 司令室にいる誰もが、巨人が飛び去るまでの間ただ見るだけしか出来なかった。 第五話 スーパーティベリウスタイム(仮) 飛び出したアイオーンは瞬時に音速を突破。ティアナの移動の意思に呼応、衝撃波を引き千切り更 に更に更に加速する。赤熱化する罅割れた装甲、だがそれだけだ。それ以上は何も起こらない。壊れ る事は無い。溶けることも無い。 鬼械神は模造品とは言え、分類上は神と言うカテゴリーに属する。人が神と言う形而上の存在を物 理的に破壊することが出来ないのと同じに、鬼械神もまた物理的に破壊は不可能―――尤も、極々僅 かながら例外と言うものが存在するのも確かなのだが―――なのである。 しかし術者は別だ。現にティアナの肉体はその殺人的加速に耐えるのが精一杯だった。そんな状態 で制御など出来よう筈も無い。 「あぐっ! このっ、言うこと、聞きなさい、よっ!」 アイオーンはティアナの意思に反し、超高速で滅茶苦茶な機動を繰り返す。上へ下へ右へ左へ前へ 後ろへ。 自身が招喚したにも拘らず、このような状況に陥っているのには理由がある。ピーキーなのだ、ど うしようもないほどに。 例えば、免許取り立てでそれまで車に触ったことすらも無い人物が、いきなりフォーミュラーマシ ンに乗ったようなものなのだ。しかも加速Gや減速Gにより押し潰される寸前の状態で操縦しなけれ ばならない。いきなり操縦できるほうが異常なのだ。 だが、何事にも僅かながらの例外と言うものが存在する。ティアナ・ランスターは、その極々僅か な例外だった。 滅茶苦茶な機動を繰り返していく内に、何と無くではあるがティアナには操縦のコツのような物が わかって来た。だがその間も肉体にはどんどんダメージが蓄積されてゆく。 全身の毛細血管が次々と断裂してゆく音が聞こえる。眼球が圧迫される。骨が軋む。操縦桿を握る手 は既に感覚が無い。術衣を纏っているにも拘らず、内臓が押し潰され吐血を繰り返す。 それもその筈、鬼械神は本来人が乗るようには出来ていない。故に術者にかかる負担は想像を絶する。 また、アイオーンは数ある鬼械神の中でもかなりの高位にある。 窮極にして至高、慄然たる魔導書アル・アジフ。その写本であるギリシア語版―――現在ではミッド チルダ言語に翻訳されている―――ネクロノミコンも相応の位を備えている。たとえ焼け落ちようとも、だ。 だが、人間が人間のまま高位の鬼械神、アイオーンを使役するためには相応の対価を支払わなければならない。 その対価とは―――術者の生命そのものである。 アイオーンを招喚した当初からティアナはそれを感じていた。最初こそただの違和感だったが、今な らばその正体がはっきりと解る。 アイオーンによって命が削り取られているのだ。より正確に言うならば、その心臓部『アルハザード のランプ』に。 僅かずつではあるが、確実に逃れ得ぬ死へと近づいている。 だが今はそんな事にかかずらっていられない。更に命を削りアルハザードのランプにくべ、機体を加 速させた。 十秒程度の飛翔だったろうか? アイオーンの紅い眸を通してそれが視えた。 遥か下方にある建物、ホテル・アグスタ。そして張られている結界。 結界内部を視る。その中にいたのはスバル達と道化師。 しかし距離が近すぎる。道化師をここから対霊狙撃砲(アンチ・スピリチュアル・ライフル)で撃てば、 スバル達を確実に巻き込んでしまう。それだけは絶対に避けねばならない。 しかしスバルたちには逃げる術がない。背後より何かが絡み付いているからだ。 ―――考えろティアナ・ランスター! 何か手はあるはずだ。スバルたちを助ける手段が! 記憶の検索と魔導書の記述検索を並行して行う。その間およそ二秒。 “―――お守り、あとで絶対返しなさいよ!―――” “―――うん! 絶対、絶対返すね!―――” 有った。 それをやり遂げられるだけの自信などない。しかも他者の脳髄、それも思考野に進入するという、人の 尊厳を踏みにじる最低の行為。だが、今の彼女に出来る最良の選択であった。 きっとスバルには嫌われるだろうな、そんな詮の無い考えが頭を過ぎる。 苦笑を浮かべつつ、ティアナは己を術式を動かす部品とする。 構築されてゆく術式。それは、喪いたくない、亡くしたくない、そんな祈りで綴られていた。 ※~~・~~◎~~・~~※ ―――術式介入――― 灼熱色の流星が見えてから少し経った頃、理解を超えた何かがスバルの中に侵入してきた。 それはスバルを壊すようなものではなく、何故か懐かしくて、とても大切で、とても暖かい。まるで誰 かに抱擁されているような安心感があった。 ―――術式展開――― スバルの頭の中で強制的に展開される術式。 ソレはとても高度な、質量をも持つような情報とでも言うべきだろうか。 やがて術式は複雑に絡み合い、見た事も聞いたこともない呪文へと変換された。 その呪文とは――― スバルは首を締め付けられながらも、その呪文を唱えた。 藁にも縋る様な思いと共に、僅かな希望と祈りを込めて。 「第……印……ダーサイン。あ……る……脅……を……ものなり」 言葉にすらならないような弱弱しい声。それでも尚唱える。何かを信じて。 そして奇跡が起こった。 それは燃える五芒の星。それは光り輝く破邪の印。それは最も新しく旧き神を示す紋章。それは……。 「エ、エ、エ、エルダーサイン!? なんで、なんでアンタ達が使えるの!? なんでぇ、なんでよぉぉぉ!!」 道化師の慌てた声が耳朶を打った。 スバル達を拘束していた『死体』が、その清浄な光に触れた途端塵へと還る。汚穢なる触手から解放さ れたスバルとエリオは、ごほごほと咳き込んだ後、肺一杯に空気を詰め込む。キャロは未だ気絶中。僅か に胸が上下している事から、生きているようだ。 燃える五芒の魔法陣は未だに輝きを失わず、スバル達を護り続けている。 懐から光が溢れている。 取り出して驚いた。 その正体は、出撃前にティアナから渡されたお守りだった。よく見れば、金属板に刻まれた模様と宙に 浮かぶ印は同じものだ。 常に余裕を持っていた道化師だが、この印を見た途端の慌てようは異様と言うよりむしろ、恐れている ようにも感じられた。 今スバルたちに出来ることは少ない。ガジェットの中に押し込められてる人を助けられないのが歯痒い。 だが、今この時だけは生き残ることを考えなければならない。 「エリオ、キャロに気付けして! それから後退するよ!」 スバルのその声に、エリオはすぐさまキャロに気付けを施して強制的に目を覚まさせ、後退。 スバルも後退しつつ旧き印を掲げ、プロテクションの応用でそれに魔力を注ぎ続けていた。 今は三人で生き残ってこの場を脱出する。 「んのぉ、舐めてんじゃないわよ!」 道化師が両手に巨大な鉄の鉤爪を作り出し、大声と共に襲い掛かってきた。 障壁を砕かんと振り下ろされる鉤爪。スバルは思わず目を瞑ってしまったが、しかしそれはきんっ、と いう甲高い音と共に、堅固な障壁により弾かれていた。 ※~~・~~◎~~・~~※ 熱圏。そこにじっと佇む大きな黒い影、アイオーン。 その眸はさながら獲物を狙う狙撃手(スナイパー)のよう。いや、この時は正にスナイパーそのもの なのだ。虎視眈々と獲物の僅かな隙を狙い続ける。 そして好機が到来した。道化師が鉤爪で旧き印を砕こうとして、弾かれたのだ。 爪を弾かれた瞬間、道化師に生まれた僅かな硬直。ティアナはそれを見逃さなかった。 すぐさまアイオーンの右手にバルザイの偃月刀を鍛造。まだ赤熱しているそれを、スバル達と道化師 の間に存在するごく僅かな隙間へと投げつけた。 投げつけた偃月刀を追う様にアイオーンも落下してゆく。 落下しつつ、アイオーンの右手にクロスミラージュを顕現させ、カートリッジをロード。銃剣とする。 するとクロスミラージュはティアナの意思を汲み、銃口に圧縮魔力で構成された刀身を作り出す。 オレンジ色の刀身に揺らめく魔術文字が意味するところは、焼滅。 叩き付けるべき相手は、道化師! ※~~・~~◎~~・~~※ スバルの目の前に何かが突き刺さる。それはまるで壁。自分達と道化師を隔てる巨大な防壁、見たこと の無い文字が刀身に浮かぶ、バルザイの偃月刀。 偃月刀が大地に突き刺さってから半瞬の後、それは来た。 驚いた拍子に見上げた空にあったのは、黒い大きな影。背中には魔力を噴射する翼、シャンタク。右手 にはクロスミラージュ。左腕は根元から無い。 そして影は落着した。 兇暴な閃光。何もかもを飲み込み、焼き尽くす白い闇。大地は溶解する暇も無く蒸発してゆく。 それから更に遅れる事半瞬、衝撃が襲い掛かる。 熱、衝撃、瓦礫、その全てを偃月刀と旧き印は防ぎきっていた。 スバルが瞑っていた瞳を開けたとき、周りには前方を除き何も無くなっていた。 大地は自分達が立っている所以外、無残に溶けて抉れ、木々は焼失していた。 目の前に刺さっていた偃月刀は防壁としての役目を終えたように頁へと戻り、黒い巨人へと吸い込まれてゆく。 全く時間が経っていないにも拘らず大地は冷え、歩ける程度には固まっていた。 黒い巨人がスバル達を見る。意思の感じられない無機質で真っ赤な眸。だが、その視線は暖かさを感じさせる。 唐突に巨人の存在が薄れ、解けて舞い踊る紙片となった。その中心には人影。 紙片は人影のもとへと集まり、吸い込まれてゆく。巨人の眸と同じ真っ赤な瞳を持った少女。 見覚えのある顔立ちだった。瞳の色も髪の色も違う。でもその人物をスバルは特定できた。 「ティア?」 その名にエリオとキャロの顔が驚愕に染まる。彼らの知るティアナとは容姿が違いすぎていたのだ。 本の頁を束ねたような翼を広げ、ゆっくりとスバル達の目の前へと着陸する。遠目では解らなかったが、 ティアナは全身が血に濡れていた。髪に至っては乾いた血で固まっている。 がくんとティアナの膝が崩れる。慌てて三人で支えた。 「助けに来たのに、助けられちゃったみたいね。これじゃ」 その時、四人の顔には確かな笑顔があった。 ※~~・~~◎~~・~~※ 突然のことだった。 ずどんっ、という腹に響く重い衝撃。 「え……? あっ……ぐ……!」 ティアナの腹に何かが刺さっていた。いや違う、濁った紫色のとても長い何かが術衣を貫き背中に突 き刺さって、肋骨を砕き内臓を蹂躙し貫通したのだ。 最初それが何か、当のティアナ自身にも理解できなかった。でも今なら解る。腸だ。鋼鉄以上の硬度 と強度を誇る汚穢な腸。それが爆心地から真っ直ぐにティアナへと伸びているのだ。 そしてその爆心地にいるモノは、焼滅呪法により焼滅した筈の道化師、その残骸。 それは確かに、残骸も残さずに焼滅したはずの道化師だった。 「う、嘘!?」 スバルが驚愕の声を上げる。無理も無い。 何故ならば、道化師の上半身は完全に焼失しており、とてもではないが生きていられるような状態で は無い。しかし現実に道化師は生きている。腸をワイヤーに、腹をウインチに見立てずるずると体を引 き摺って行く。止め具はティアナ自身だ。 ティアナの肉を引き裂く、決して上げてはいけない音。めりめり、めりめりと。 「あぐぁぁぁあぁあっ!!」 文字通り体を引き裂く激痛にティアナが苦悶の声を上げた。 「あーあ、やってくれちゃったわねぇ……ほんっとどうしてくれようかしら、この小娘」 顔は無く、肺も喉も無いのに確かな発音をもって道化師が喋っている。 ずるずるずるずる。道化師は喋りながら己の体を引き摺り、ついにはティアナの真後ろにまで到達していた。 そして異変。 下半身から背骨が生えた。まるで枝が伸びるように骨が次々と再生してゆく。肋骨、肩甲骨、頭蓋骨。 今度は骨から肉が『生えた』。 肉が肉を構成し、段々人間の形に近づいてゆく。神経、血管、筋肉、脂肪、眼球。 全身が筋肉と脂肪で覆われ、そして腐り落ちた。同時に漂う、吐き気を催す腐敗臭。全身に湧いた蛆 が腐肉を食らい、ぶくぶくと肥え太ってゆく。 ゆったりとしたローブで全身を包み、懐から仮面を取り出し装着する。下卑た笑みを浮かべる緑色の 仮面だった。 「はぁい、復活よぉん☆」 そこにあったのは、先程と寸分違わぬ道化師の姿だった。 「ほんと痛かったのよ……」 「あがっ……ぁぁっ!」 突き刺さっている腸が蠢き、内臓を骨を更に蹂躙する。ぐちゃり、ぐちゃり。 ティアナもスバルたちも必死になって腸を切ろうとするが、それは途轍もない硬度と弾性を持ち、更 に傷をつけたとしてもたちどころに再生してしまう。 時間を追う毎にティアナの顔色が悪くなってゆく。傷口からは既に失血死寸前の血液が流れ出し、彼 女の足元に血溜まりを作り出している。その上、アイオーンの招喚、及び操縦でかなりの血が流出している。 「このまま縦に引き裂いちゃっても良いんだけどぉ、それじゃアタシの腹の虫が収まらないのよ……。 こーんなにコケにされちゃってさぁ。 ……殺してなんてあげないわ、生きたまま地獄を味あわせてやるわよ!!」 怒りの声。その声に連動し、くるりと道化師の仮面が裏返る。それまでの笑みを浮かべるものから、 現在のティベリウスの精神状態、つまり激怒を表す真っ赤なものへと変化した。 放たれる強い殺気。ソレは胸をむかつかせ、吐き気を催す饐えた臭いのする殺気だった。 「そらぁっ!」 ティアナの体が腸に持ち上げられ、硝子状に固まった地面へと叩きつけられる。クレーター内部にク レーターが生まれる。 「ティアッ! うおおおおおっ!」「ストラーダ!」「フリード!」 魔力を纏ったスバルの拳が道化師を撃つ。その一撃で胴体が抉れ蛆の湧いた内臓が露出する。間髪を 入れずにストラーダによる連続斬撃が道化師の肉体を削り、最後にフリードリヒの吐いた炎が焼き尽く す筈だった。 だが道化師は、苦悶の声どころか恍惚の声を上げるばかり。 「ああん、いいわぁっ! アンタたち最高よ、もっとやって! キル・ミー! プリィィィィィィズ!! ファック・ミー! プィィィィィィィィィィズ!!」 つづく。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2726.html
ミッドチルダ北部ベルカ自治領。 ノーヴェとゼロが激戦を行った岩場から、そう距離はない森の中。ギンガ・ ナカジマにルーテシア、そしてゼスト・グランガイツとアギトを加えた一行で ある。使い魔も数に数えるなら、ルーテシアの忠実なる僕、ガリューもいる。 「ここは……何かの史跡か?」 アギトが周囲を見回しながら、物珍しそうに呟いた。 「史跡と言うより、遺跡だろうな。古代ベルカの匂いの残る場所、とでも言う べきだろう」 聖王教会は次元世界最大の信徒数を誇る宗教、『聖王教』の総本山である。 宗教権力は、いつの時代、どんな場所においても絶大な力を発揮するに違わず、 旧ベルカ自治領を中心に存在する組織は、管理局最高評議会に匹敵する権力と 発言権を持っているとされる。でなければ、ミッドチルダにあって古代国家の 自治領など認められるわけがない。 こうした宗教権力との結びつきに対し、地上本部のレジアス中将などは批判 的であり、否定的だ。彼が本局から疎まれるのには、そうした利権屋に近い屑 どものせいでもある。 「教会と管理局の癒着は、百年やそこらで語れる物じゃない。大司教や枢機卿、 教皇たちは三提督に並ぶ位置にいるとされ、そもそも局内及び管理世界におけ る信者の数は多い……真に恐ろしいのは、信仰深い狂信者。怖い話ね」 蔑むような口調で喋りながら、ギンガは遺跡内を探索している。ベルカ自治 領には、このような場所が多い。本来なら、考古学者の類などが旧文明の遺産 を解き明かそうと発掘や採掘でもするのだろうが、教会はそれを拒み続けてい る。彼らにとって、この森は信仰対象である聖王の庭であり、ベルカ自治領そ れ自体が聖王の持ち物なのだという。国は王に帰するもの、という考えは理解 できなくもないが、滅び去った国と王に何の価値があるというのか。 「……ここかな、ドクターの言っていた入り口は。ノーヴェの方じゃなくて、 こっちが当たりだったみたい」 岩と岩の隙間に、入り口のような物が見える。ギンガは左手で、ゼストの背 丈ほどもある岩片を掴むと、片手でそれを放り投げた。思わずアギトが驚きの あまり目を点にしてしまったほどで、ガリューも無言ながら一歩、後ろに下が ったほどだ。 「凄い力」 ポツリと、ギンガの怪力を見せつけられたルーテシアが呟いた。無表情なが らも驚いてはいるようだ。ゼストもまた、既にギンガが自分では止められない ほどの実力者へと変貌していることを実感せざるを得なかった。 「さぁ、入りましょうか」 言って、遺跡内に足を踏み入れるギンガだが、 「……へぇ」 その前に、四つ足の脚部を持つガジェットが、這い上がるように現れた。 「自動防衛システムって分け、面白いじゃない」 ギンガは、左腕の拳を強く握りしめた。 第18話「ナンバーズ分裂」 ミッドチルダ中央区、先端技術医療センター。 ゼロは、久方ぶりにここを訪れていた。以前来たときは、ギンガが一緒だっ た。彼の身体の具合を心配した彼女が、戦闘機人として世話になっていたこの 施設をゼロに紹介したのだ。 しかし、そのギンガは今、ゼロの隣にはいない。 「良かったね、ノーヴェ。チンクの側にいられて」 ガラス越しに見える、集中治療室の光景。セインは、機能停止したまま治療 を受けている姉妹の姿を見ている。 重傷患者であったチンクは勿論、新たにノーヴェまでもがここに担ぎ込まれ た。センターにあって、戦闘機人向けの設備はそれほど多いわけではない。必 然的に、ノーヴェはチンクと同じ場所に収容されることとなった。 「一時はどうなるかと思ったけど……本当に良かった」 呟くセインに、傍らのゼロは何も言えないでいた。ノーヴェが傷つき倒れ、 ここへ収容される原因を作ったのは他でもない、彼自身だ。命だけは助かった と言っても、それだってゼロが何かした分けじゃない。彼が戦った結果として、 偶然ノーヴェが生きていたという事実がくっついてきただけだ。 セインはゼロを責めなかったし、今後もその気はなかった。だが、ゼロとし ては責任の一つも感じざるを得ない状況である。聞けば、ノーヴェはセインを 含めて先にゼロに倒された姉妹らと特に仲が良く、恐らくそうした事情が彼女 を追いつめ、後のない戦いを挑ませたのではないだろうか? 形振り構わぬ捨て身の攻撃、そこに付け込んだスカリエッティ。けど、ノー ヴェを実際に倒したのはゼロなのだ。 ゼロはセインには声を掛けず、黙って部屋を出た。逃げたといわれても、否 定はしないし、出来るわけがない。 「ゼロ……大丈夫?」 部屋から出てきたゼロに、フェイトが心配そうな声を掛けた。彼女はとある 任務があって、ゼロとセインとは別ルートでここを訪れていたのだ。 「心配ない」 簡潔に答えるが、明らかに無理をしているとフェイトは感じた。だが、フェ イトにしたことろで容易に口を挟める問題ではないのだ。気にする必要はない、 などと彼女が言えるわけもないし、例えセインがそのように言ったところでゼ ロは気にするだろう。 「マリエル技士官が、あなたに用があるって」 それは、以前ゼロの身体のメンテナンスを担当した女性の名前である。ゼロ は無言で、彼女の待つ部屋に向かって歩き出す。フェイトもそれに続くが、ふ とゼロは足を止めて立ち止まった。 「ゼロ?」 怪訝そうな声を出すフェイトに、ゼロは背を向けたままこう言った。 「心配を掛けて、済まない」 時空管理局本局は、先日に襲撃事件によって敵がナンバーズと呼ばれる戦闘 機人を奪還する意思があることを、勘違いではあるが、知ることになった。単 機での潜入は馬鹿げているの一言で済ませられるが、これが大軍ならばどうな るか? しかも上層部は、未だに機能回復せず満足な尋問も行えないナンバーズを持 て余しており、厄介なお荷物、腹に爆弾を抱え込んでいるなどと揶揄される始 末だ。それに対し高官たちは会議を重ね、一旦捕獲したナンバーズを別の場所 に極秘裏に移すことにした。機能を回復させた後、尋問、または拷問を行い情 報を得る。 そして任務を与えられたクロノ提督は義妹のフェイトに連絡を取って、彼女 に二体のナンバーズを先端技術医療センターまで護送させたのだ。 「一応、八番の子がそろそろ目を覚ましそうだよ。見た目からして男の子かと 思ったんだけど、引っぺがしてみると女の子だったりしたよ」 コーヒーを飲みながら、マリエルは何とも微妙な話を笑い話にしている。お 義理でフェイトは笑ってやるものの、ゼロは無表情を貫いている。笑わないゼ ロに、やれやれとマリエルは呆れて、話題を変える。 「ところで、リインは最近元気? 仲良くしてる?」 何故かフェイトではなく、ゼロに尋ねる。 「主を失って、気落ちはしているようだが」 底抜けに明るいリインでさえ、はやてが倒れた、倒されたという事実は堪え たようだ。しかもそれが、懇意の仲とも言えたギンガによってとなれば、尚更 だろう。 「そっか……良かったら慰めてあげてよ。あれで、寂しがり屋だからさ」 「善処する」 嫌だとか、無理だとか、そういうことは言わない。不向きなことだとは、思 っているが。 「宜しい。リインとはね、仲良くしておいた方が良いよ。あなたとリインが協 力し合えば、ちょっと面白いことが出来ると思うから」 意味ありげな笑みを浮かべるマリエルに、ゼロが怪訝そうな、フェイトがキ ョトンとした視線を向けるも、彼女はそれを交わして、起ち上がると隅にある 比較的大きいサイズの棚へと向かう。 「えっとねぇ、ここにしまってるんだけど」 鍵束から鍵を選び、いくつもの錠を解錠していく。研究資材か、発明品でも 入れているのだろうか? 厳重な管理を見るに、ただの棚というわけではなさ そうだ。 「魔法の使ったセキュリティは、それを突破する物がすぐに編み出されてイタ チごっこ状態。こんな昔ながら鍵の方が、却って良かったりするんだよね」 解錠の魔法を使えても、ピッキング技術を持ち合わせていない盗人や泥棒の 類は五万といる。これも魔法社会の、あるいは良い意味での弊害なのではない かとマリエルは考えていた。 「さて、と。これだこれ」 大きな合金製の、長大なケースを取り出すマリエル。テーブルまで戻ってく ると、それをゼロとフェイトの前に置いた。 「フェイトさんに見せて良いのかは判らないけど……」 特殊な形状をした鍵を差し込み、ケースを開ける。現れる中身に、フェイト はそれが何であるか判らなかったが、ゼロはすぐに判った。 「完成していたのか」 ケースの中に入っていたのは、金属製で出来ている二種類の……何であろう か? フェイトはすぐに答えを出せないでいた。 一つは、小型の円盤状をしており円形の盾であろうか? それにしては少々 小さい気がする。もう一つは、これは二つの棒状の物が一組となっており、形 としては警邏が持っているようなトンファーによく似ている。 「ゼロ、これは?」 尋ねるフェイトだが、口を開いたのはゼロではなくマリエルだった。 「円盤状の盾がシールドブーメラン、こっちのトンファーみたいのがリコイル ロッド。どちらもゼロに頼まれて作った武器」 武器という単語に、フェイトが驚いてゼロを見た。武器はロッドの一つを手 に取ると、物は試しと握り込む。材質は金属だが、ゼロの知らないこの世界の 物。後で知るのだが、デバイスなどに使われる軽くて硬い特殊素材なのだとい う。 「エネルギーは、あなたが直接供給を行えるようになってるから、あなたが倒 れない限りはエネルギー切れを起こす心配はない。威力の方は実戦テストをし てないから何とも言えないけどね」 それでもこの短期間で、異世界の武器を完成させたのはマリエルの優秀さを 示す証拠だろう。 「感謝する」 短く礼を述べるゼロに対し、マリエルは満足そうに頷いてそれ以上は何も求 めなかった。良い研究と開発が出来た、彼女にとってはそれで十分なのだ。ス カリエッティといい、研究者の類が如何に救われがたい生き物かが良く分かる が、それを見ていたフェイトはそんなことを言うつもりはない。 「ゼロ、あなたはまだ戦うつもりなの?」 起ち上がって、フェイトはゼロに問いただした。彼女は、もうゼロが戦うべ きでは、戦い続けるべきではないと考えていた。彼が不幸を呼び込むとか、そ んな下らない妄言を気にしているのではない。理由は、他にある。 「あなたは、傷ついている。戦う度に、ずっと傷ついてきている」 それは、負傷や損傷という意味だけではない。ノーヴェの件も含めた、内面 的なもの。単純に、敵を倒してそれで終わりという状況ではなくなっているの だ。ガジェットのような稚拙な知能しか持たない兵器ならまだしも、外見は人 間のそれと変わらぬ、少女の姿をした戦士たち。ゼロは無表情に、無感情にこ れを倒してきたように思えるが、そんなわけはない。 セインをはじめ、姉妹の繋がりを知った今となってはその剣先は鈍っている。 鈍っているはずだ。 「スカリエッティのことは、私たちに任せて。異世界から来たあなたが、これ 以上私たちの世界の問題を背負い込む事なんてない!」 フェイトとしてはゼロのためを思って、戦いながら精神をすり減らしている ように見えた彼を気遣っていったのだが、 「オレは自分の意思で、スカリエッティと戦う道を選んだ。一度決めたことを、 覆す気はない」 フェイトの気遣いには謝辞をするが、ゼロは意志を曲げようとはしなかった。 「……オレは、オレはどんな綺麗事も言うつもりはない。結局、オレは戦って 敵を倒すことしかできない。アイツの大切な妹だと知っていたのに、オレは戦 って倒すことしかできなかったんだ」 ここまでゼロが自己に否定的な発言をするとは、フェイトは思っても見なか った。故に、フェイトはそれ以上、何も言えなくなってしまう。 そんな二人のやり取りを、コーヒーを啜りながら眺めていたマリエルだが、 通信端末の緊急ランプが点滅をしたので起動させた。 「なに? 敵がここに襲撃でもしてきた?」 緊迫感のない声で言う物だから、ゼロとフェイトが思わずマリエルの方を見 た。マリエルは下士官から何やら報告を受けているようだが、あまり自分には 関係のない内容なのか、それほど驚いてはいなかった。通信を終えると、見守 る二人の方に顔を向けた。 「痴話喧嘩はそれぐらいにした方が良いよ」 「なっ、私たちは別にそんなんじゃ」 赤面して抗議の声を上げるフェイトに、マリエルは無視して言葉を続けた。 「臨海第8空港、そこにガジェットの大部隊が侵攻したって」 言って、マリエルはコーヒーを啜ろうとするが、カップは既に空っぽだった。 ミッドチルダ北部にある臨海第8空港は、現在から遡って四年ほど前に起き た空港大火災によって閉鎖された場所である。 空の要路として重要視されていた空港であるにもかかわらず、火災発生時の 管理局地上本部の対応は鈍足だった。言い訳が許されるなら、ベルカ自治領近 くにあって教会の出資金によって作られた空港であるから、対処するにも管理 局と教会、どちらがするべきなのかという指示系統の乱れが生じた。 しかし、聖王教会はすぐに動こうとはせず、また明確に管理局対して対処の 依頼もしなかったため後日地上本部から非難されるのだが、「対応を謝った地 上本部の方こそ悪い」という一方的な主張を続ける教会と、被災者の救助にの み心がけた教会騎士団の存在ばかりが持てはやされ、地上本部の主張は逆に批 判される結果となった ちなみに、この事件を切欠に八神はやては機動六課の構想を練りはじめるの だが、彼女は聖王教会にすり寄る存在だったため、地上本部を非難する側に回 っていたという。 「レリックが絡んだ大災害……あのまま放棄されると思ってたのに」 六課の仮隊舎にて、なのはが複雑そうな表情をしながら口を開いた。 臨海第8空港の跡地とも言う場所は、長く整備区画として放置されてきた。 それが最近になって、やはり聖王教会の出資によって空港として再建する計画 が進められていたらしい。三ヶ月ほど前に瓦礫を撤去し、新たな空港施設を作 る。恐らく、何らかの利権があって、利権屋が働きかけているのだとは思うが、 なのははそういった部類のことをなるべく気にしないようにしている。 面倒くさいからだ。 「でも、さすがに今回は地上本部に任せても良いのではないですか?」 教会騎士カリムによる出動要請に、なのはは常識論で対応した。完成して、 利用客も多い空港に敵が攻めてきた、というのなら一人でも多くの魔導師が行 くべきだと思うが、今回は建設中の段階だ。工事の人間を非難させる程度のこ とは陸士隊一個中隊で済むし、何なら施設を放棄した上で戦力を結集、反撃に 出るという手だってあるはずだ。 『あそこは教会が多大な出資金を投じています。その出資金は、全て信者の寄 付によって成り立つ物、無駄には出来ません。それに……』 「それに?」 宗教権力者の浅ましい論調にウンザリするなのはだが、続けて出た言葉に顔 色を変えることになる。 『今日、あそこの建設現場には聖王教会系列の小学校から、多数の児童が社会 科見学に行っているそうなんです。児童の安全も気がかりですし』 「ど、どうしてそれを早く言わないんですか!」 なのはは思わず大声を上げた。全く、金の話などよりも、そっちを先にする べきではないのか。 カリムに対して呆れかえる時間も、こうなって惜しい。なのはは要請を受諾 することだけを告げると、フェイトに緊急連絡を行って帰還を諭し、現状出撃 できる全ての隊員を集めた。 ティアナ、キャロ、シグナム、ヴィータ。たった4人だ。しかも、守護騎士に 至ってはデバイスが修理中ということもあって、戦力としてはろくな期待をし ない方が良い。 「……スバルは?」 なのははティアナの方を見るが、彼女は黙って首を横に振った。スバル・ナ カジマは、未だに姉の裏切りと、その姉による父親殺しから立ち直れないでい た。 「わかった、スバル抜きで行こう。みんな、すぐに出撃準備を。教会が移動の ヘリは用意してくれるって言うから」 使えない人間に、いつまでも構っている時間はない。なのはは魔導師として、 戦士として判断した。この状況下でそれは正しい判断であったが、キャロには それが少し非情にも見えた。 だが、ティアナは…… 「五分、時間をいただけませんか?」 「えっ?」 「スバルを、部屋から出します」 戦闘を行いながらの人員救助となれば、戦力は一人でも多い方が良い。なの はは数秒ティアナの瞳を見つめていたが、 「三分、それ以上は待てないよ」 部下、あるいは教え子に対する情念からか、それを許したのだった。 スバル・ナカジマは、ここ数日間部屋の外を一歩も出ようとしなかった。テ ィアナが食事を運びに行くも、目にするのは手の付けられていない前に運んだ 食事のプレート。水の一滴も飲んでいる気配はなく、一度ならず怒鳴って食事 と給水のために無理矢理飲食をさせようとしたのだが、 スバルは食べ物を口に含んだ瞬間、吐き出してしまった。 苦しそうに吐瀉物を吐き出し、恐怖に震えていたのだ。 父親の死、目の前で、自ら抱きかかえていた父親が、姉の放った魔力光に貫 かれて死んだ。スバルには、精神的ショックの一言で片付けられることではな かった。その瞬間こそ、沸き上がる怒りをギンガにぶつけることで父親の死を 受け入れようとしたスバルであるが、怒りというのは冷めるものである。 冷静さを取り戻したとき、そこに残ったは姉への怒りに打ち震える少女では なく、父親を永遠に失った15歳の少女が、いるだけだった。 「スバル、入るわよ」 友人が精神上の絶望にあることは、ティアナにだって痛いほど判る。けど、 だからといってそのままにして良いはずもない。多少強引にでも、立ち直って 貰わねば困るのだ。 スバルは、部屋の隅に蹲っていた。他にあるのは、いつもと変わらぬ手の付 けられていない食事のプレート。水のコップも、口を付けた様子はない。 「また、食べてないんだ」 まだではなく、また。戦闘機人だからといって、食物を取らずに生きられる ものではない。スカリエッティの理論では細胞維持が出来れば最低限の食事で 事足りるというのだが、それでも食べなくてはいけないことに代わりはないの だ。 「いつまで、そうしてるつもり?」 尋ねるティアナに、スバルは何も答えない。声が聞こえているのか、聞こえ ていないはずはないと思うが、顔を上げようともしない。側まで歩み寄るティ アナだが、その視線は悲痛と言うよりは、むしろ苛立たしげだった。 「臨海第8空港が、ガジェットに襲われてるそうよ」 その事実に対しても、スバルは反応しようとしない。 「四年前の大火災以来、放棄されていたのが、数ヶ月前から再建をはじめてる んだって……確か、スバルとなのはさんが初めて会った場所だって、言ってた よね?」 ギンガとフェイトが、出会った場所でもある。姉とはぐれ、燃え上がる空港 内を彷徨っていたスバルを、なのはが助けた。スバルは、その時のなのはの勇 姿、それに憧れて魔導師を目指しはじめたのだ。 「空港には今、聖王教会系列の学校の生徒たちがいて、助けを待ってる」 六課はそれを、全力で助けに行くことになった。動ける者は皆、出動するの だ。にもかかわらず、スバルは動かない。 「何とか、言いなさいよ」 ティアナの声が、段々と低く、小さくなる。動かぬ友人に、動こうとしない 友人に、歯がゆさを憶えはじめている。 スバルの胸ぐらを、ティアナが掴んだ。掴み上げ、無理矢理立たせたのだ。 「何か、言うことはないのかスバル!!」 怒声とも言うべき声に、さすがのスバルの表情が変化した。そして、幾日も 水分すら取ることのなかった乾いた唇で、掠れきったはずの声で叫び返した。 「あたしのことは……あたしのことはほっといてよ!!」 思うように力の入らぬ腕で、それでも力を込めてスバルはティアナを突き飛 ばした。乾いた身体からは、涙の一筋も流れることはない。 「父さんが死んで、殺したのはギン姉で……なんで、どうしてこんなことにな ったんだよ!」 愛する家族、それがどうして殺し合わねばならなかったのか。何故、ギンガ はあんなに慕っていたはずの父を殺したのか、スバルには理解できない。何も、 判らないのだ。 「もう嫌だよ、あたしは何も出来ない。何もしたくない!」 崩れるのは、身体だけではない。スバルの心その物が、崩れ去ろうとしてい た。今までスバルの見てきたものが、信じてきたものが、全て虚像だったかの ような虚無感。両親も、姉妹も、何もかもが嘘だったとでも言うのか? 絶望が、スバルの身体を支配していた。出口のない、あったとしても手の届 く位置にはない、沈み行くだけの世界。 「…………スバル」 沈み行くだけ、もはやそれ以外に何も求めてはいない友人の姿に、ティアナ は―― 「歯を、食いしばれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」 右の拳を持って、殴り飛ばした。 衝撃に、ほとんど無防備であったスバルが壁に叩き付けられた。唖然と、愕 然とした表情で、彼女はティアナを見つめている。 「ティア……」 いつ振りになるのか、スバルは友人の名を口にした。平手打ちなど柔な一撃 とは違う、拳による明快なまでの一発。 「見損なったわよ、スバル」 再び、ティアナがスバルの胸ぐらを掴んだ。 「どうしてこんなことになったのか判らない? そんなの、誰だって判らない わよ!」 二発目の拳が、スバルを殴り飛ばした。無抵抗のスバルは、まともに食らう ことしかできない。 「もう少しばかし、根性のある奴だと思ってた。スバル、アンタは判らないま まで済ますの? このまま現実から目を背けて、いつまでも自分の殻に閉じこ もって、ずっと逃げ続けるの!?」 泣いているのは、ティアナの方であったかも知れない。人を殴るということ は、あるいは殴られた相手以上に、殴った相手の拳が痛むのだ。 「立ちなさいよ、立って、殴り返して見せなさいよ! 悔しくないの? 殴ら れて、悔しいと思える気概はないの?」 そんなもの、ありはなしない。自分が友人に殴り飛ばされても仕方のない腑 抜けになってしまったことぐらい、スバルだって判っているのだ。しかし、判 っていてもどうにもならない。気力が、沸かないのだ。 「アンタがすることは、ここでずっと閉じこもってることなのか、それともギ ンガさんに会ってその真意を正すことなのか、アンタはそれを決めるべきなの よ!」 「そんなの、わかんないよ。嫌だよ!」 「現実ってのはね、いつだって嫌なもんなのよ! 目を背けて生きて行ければ、 これほど嬉しいことはない。だけど、それが出来ないから現実なのよ!」 ギンガと再会すれば、スバルは最後の家族を、実の姉を失うことになるかも 知れない。 「ギンガさんが人殺しを続けるのを黙ってみているのか、それを殴り飛ばして でも止めるのか、判断するのはスバル、アンタだけよ! 選択肢を選ぶのは、 お前一人だスバル・ナカジマ!」 叫ぶと共に、ティアナは掴んでいた胸ぐらを乱暴に離した。そして、倒れ込 むスバルに向かって背を向けた。 「私は、出撃する」 「ティ、ティア……!」 「とっくに、三分過ぎちゃったから」 ティアナは、駆けだした。友人に背を向けて、その目に浮かべた涙を悟られ ぬように、駆けだしたのだった。 なのはたちが現場に急行するよりも早く、ゼロとフェイトが臨海第8空港に到 着していた。 「プラズマランサー!」 射撃魔法で迫り来るガジェットを撃ち落としながら、フェイトは制空権の確 保にと努めている。地上ではゼロが、セイバー片手にガジェットを斬り倒して いる。他にも陸士隊などの武装局員が集結しつつあるが、スカリエッティは途 方もない数のガジェットを投入してきているらしい。 「サンダースマッシャー!」 雷撃の魔力砲撃で周囲のガジェットを一掃すると、フェイトは情報確認のた めに指揮官級の士官に通信回線を繋いだ。 「状況は? 子供たちの避難は?」 真っ先に行われるべきである子供たちの安全確保と、避難誘導。二個中隊か らなる部隊がその活動にあたっているはずだが、未だに完了報告が来ないのだ。 『救出、救助はほぼ完了していますが……』 「ほぼ? 正確に報告を!」 半ば怒鳴るように言うフェイトに萎縮しながら、士官は何とか口を開く。 『そ、それが僅か一名ほど行方の判らなくなった子供が――』 言葉を、フェイトは最後まで聞いていなかった。アークセイバーでガジェッ ト部隊を斬り飛ばすと、一気に地上まで降下しゼロと合流する。 「ゼロ、空港内にまだ子供が!」 報告したところで、どうなるわけでもない。情報共有は大事だが、あいにく ゼロとフェイトは最前線での防衛に乗り出してしまった。 「陸士隊は、発見できそうなのか?」 「捜索はしてるみたいだけど、内部にもガジェットが潜入して戦闘状態になっ てるって」 面倒な事態になった。武装局員も、戦いながら一人の子供を捜し出すのは難 しいだろう。子供だって馬鹿ではないから、火の気のない場所に隠れるぐらい はしているはずだ。それが却って見つけにくくする要因になっているのだが、 必要なことでもある。 「オレたちが行けば、ここにいる敵を引き込む事態になる。それは不味い」 バスターを連射しながら、ゼロは苦い表情を浮かべる。 「六課の連中が到着次第、奴らに任せるしかない」 「わかった。なら、当面はガジェットの殲滅を!」 フェイトは確認すると、また空へと浮上していった。思えば、ゼロとこうし て共同戦線を張るのは、意外にも初めてであった。 地上にあって、ゼロは全ての敵を倒している。下から攻撃を受ける心配がな い、それ故にフェイトは空で大暴れが出来るのだ。 戦闘要員が誰も居なくなった仮隊舎で、スバルは壁により掛かりながら茫然 自失としていた。殴り飛ばされた頬に触れながら、放心状態となっている。 「ギン姉……」 自分は、どうすればいいのか? 困ったとき、迷ったときは、いつでも友人 に、家族に、姉に相談をしてきた。 いつもそうだった。姉は、ギンガは、いつだってスバルを守ってきた。そし て、スバルはそんな姉に甘え、ずっと守られてきた。 幼き日、スバルは姉に言ったことがある。どうしてお姉ちゃんは自分を守っ てくれるのかと。 「そんなの、決まってるじゃない」 姉は笑顔で、スバルの頭を撫でる。 「私が、スバルのお姉ちゃんだからだよ」 姉は、妹を守るものなのだ。そんなことを、スバルは気にしなくて良いし、 気にする必要もない。ギンガはそういって、自分がスバルを助け、守る当然の 理由を語り聞かせた。 「でもね、スバル――これだけは忘れないで」 古い記憶の中で、姉が微笑み、語りかけてくる。 優しかった姉の姿は、もはや記憶の中にしか存在しないのだろうか。 「もし、あなたが誰か困っている人や、助けを求めている人を見つけたら、助 けてあげて」 いや、違う。 「あなたには、私がいて父さんがいて、助けてくれる人がいる。だから、あな たにも、誰かを助けられる人になって欲しいの」 あの時、自分を守ってくれたギン姉は―― 「強くなくてもいい、弱くても構わない。だけど、心だけは、心の強さだけは、 持っていなくちゃダメだから」 スバルは、床に置いてあった水のコップを手に取ると、一気に飲み干した。 冷たくもない、温い水だが、乾ききった身体には冷水よりも、こちらの方が染 み渡った。 「ギン姉……あたしはギン姉よりも弱いけど、弱いけどさ」 あるはずもない力を振り絞りながら、スバルは呟いた。 「心だけは、弱くするつもりはないから!」 ガジェット部隊との戦闘が続く空港では、既になのはたちも合流しての防衛 戦が行われている。港内にはキャロとティアナが突入し、不明者の捜索を手伝 っている。 「吹き飛ばしても、吹き飛ばしても、一向に減らないね!」 何度目かも判らぬ魔力砲撃でガジェットを掃滅しながら、なのはは圧倒的な 物量戦を仕掛けてきた敵に危機感を憶えていた。 「でも、完成後ならまだしも、何で建設途中の空港なんて襲ってるんだろう?」 ガジェットを斬り飛ばしながら、フェイトはふとした疑問を投げかける。確 かに、今までの襲撃地点に比べると、ここは何ら重要性のない場所だ。要人が いるわけでもなければ、施設的に必要ともされていない。 「さあ、案外教会の邪魔をしたかったとか、そんな理由じゃない?」 誘導弾を操作しながら、なのはは先ほどの教会騎士とのやり取りを思い出す。 噛み合わない言葉、発想、なのはの生まれた世界にだって宗教は存在するが、 住んでいた国は無宗教に近いと言って差し支えのない場所だ。それ故かは判ら ないが、どうも彼女は宗教家や宗教権力者の類が好きになれない。 「だって、胡散臭いんだもん」 「なのは?」 「あ、何でもないよ!」 空戦魔導師が一人増えただけで、戦局は一気に覆された。なのはが一個大隊 近い能力を有しているせいもあるのだろうが、敵の方も無限の回復力を持って いるというわけではないらしい。空中部隊は未だに途切れないが、地上部隊は 戦力の薄さを見せ始め、ゼロが突破を試みている。 「こいつらを操る指揮官、ナンバーズが必ずどこかにいる。それを叩けば」 フェイトの心配とは裏腹に、ゼロにはナンバーズと戦うことに対しての抵抗 感はなかった。そんなことを考えている余裕も感情も、あるいはゼロにはなか ったのかも知れない。 ガジェットを斬壊させながら突き進むゼロであるが、その手には一つの端末 が握られいてる。セインの持っていた、ナンバーズ間の通信装置である。反応 によれば、付近にナンバーズは必ずいるのだ。 だが、一体どこに―― 「誰か、探しているのか?」 ゼロの反応は早かった。瞬間的に声のした方向、背後に向かって斬り掛かっ た。緑色の光りと、赤い光が激しくぶつかり合う。 敵は、いた。 姉妹共通の戦闘スーツに、赤い輝きを放つ二刀の刃。間違いなく、ナンバー ズの戦闘機人。 「後ろを、取られただと?」 それとは別に、ゼロは敵の少女に後ろを取られたという事実に驚きを憶えて いた。実際、話しかけられるまで気配を感じなかった。ステルスシステムか、 気配が瞬時に現れた感じだった。 「最後のナンバーズが一人、12番ディード。貴様に負けた姉たちの恨み……そ の首、貰い受ける!」 建設中の空港内では、既に火災が発生している。戦闘が各所で巻き起こり、 移動することすらままならない。 「なんて、酷い」 死体となって倒れる武装局員の姿に目をやりながら、ティアナは救助対象の 少女を捜し求めていた。ただ一人、未だに見つかっていない生徒である。 他の隊員や局員からの救助報告はなく、生きているのか死んでいるのかさえ 判らない。 「違う、きっと生きてる。私が助けてみせる!」 ティアナもまた、昔は助けられて生きてきた。ある時は両親、両親が死んだ 後は兄、特に兄に関してはたった一人の妹として、過保護過ぎるとほどにティ アナを愛し、守り続けた。 しかし、その兄も死んでしまった。エルセアにある墓の下で眠る兄に、妹を 守ることは出来ない。きっと兄は、そんな自分を責めているだろう。守ること の出来ない妹を、心配しているだろう。 「だから、私は強くなる。兄さんが心配しない強い子になって、それで」 兄のように、誰かを守れる人になってみせる――! 「あれは!?」 ティアナの思いが通じたのか、港内の小さなスペースに蹲るように、少女の 姿を発見することが出来た。 ガジェットが周囲にいないことを確認しながら、ティアナは少女、まだ幼女 と言っても良い年頃の彼女に近づいた。 「大丈夫、怪我はない?」 「お、お姉ちゃん……誰?」 よほど怖い思いをした、いや、今現在しているのだ。声と身体はガタガタと 震え、ティアナに向かって飛びついてきたほどだ。少女の身体を抱きかかえ、 その背をさすりながらティアナは落ち着かせようとした。 後は味方を呼んで、この子を安全な場所まで避難させれば、それでいい。テ ィアナは少女を抱えて起ち上がるが、その行く手に、 「不味いっ」 ガジェットⅡ型の一機が、運悪く現れてしまった。しかも、卑しくもティア ナと少女をそのモニターに捕らえ、敵として補足したのだ。 エネルギー光を放ちながら突撃する敵機に対し、ティアナは少女を庇うよう に地面に伏せた。デバイスの一つを構え、飛び交う敵機に向かって銃撃する。 「撃ち落とされろ!」 魔力弾を避けながら上昇する敵機であるが、ティアナは度重なる修練と訓練 のせいかは、ここで発揮された。デタラメに撃っているようで、ちゃんと狙い を付けて放たれた弾丸が、ガジェットⅡ型の推進部に直撃したのだ。 「やった!」 後は、落下してきた敵にもう二、三発の銃撃を加えて破壊するだけだ。ティ アナは再び敵機に向けて狙いを付けるが、敵は落ちてこなかった。なんと、魔 力弾によって推進部を破壊されたガジェットは、それこそメチャクチャな飛行 と浮遊を続け、ついには天井に激突して自滅してしまった。 その光景を見つめるティアナだが、敵との遭遇以上に緊迫した表情へ、顔を 変化させた。 「瓦礫が――!?」 ガジェットの激突によって、天井の一部が崩れ落ちてきた。硬い岩盤とも言 うべきそれは、真っ直ぐティアナと少女目がけて落ちてくる。ティアナは思わ ずデバイスでの破壊を試みたが、それが不味かった。直撃して砕けるわけでも ない岩盤など相手にせず、少女を抱えてその場を離れれば良かったのだ。無益 な抵抗が、結果として二人に逃げる時間を失わせてしまった。 「しまった、当たる!」 せめて少女だけは救おうと、抱え込むように抱きしめるティアナ。自分は死 んでも、この子だけは。 巨大な破片が、直撃した。轟音と共に衝突し、砕け散った。 だが、それはティアナと少女に当たったのではない。 「えっ――?」 ポカンとして、ティアナは少女を抱えたまま顔を上げた。 そして、見た。 「このぉっ!」 両手で、落下してきた破片を受け止める親友の姿を。 「ス、スバル!?」 居るはずのない、来られるはずのない彼女の姿、存在に、ティアナは我を忘 れそうになった。 「ティア、悪いんだけどさ」 無理矢理笑みを浮かべながら、スバルが口を開いた。 「これ、結構辛いんだよね。早く逃げてくれると……助かる」 慌てて、ティアナは少女を抱えてその場を離れた。それを確認すると、スバ ルは右腕のリボルバーナックルを回転させる。 「どぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」 拳の一撃で、スバルは破片を砕き飛ばした。数日間飲まず食わずだったとは 思えない、途方もないパワー。 戦闘機人の底力? 違う、これはスバルの、魔導師として立派に成長した、 誰かを守ることの出来る力を手に入れた、スバル・ナカジマの力だ。 破片を粉砕し、その場にへたり込むスバルに、ティアナは歩み寄った。スバ ルは、近づく親友の顔を見上げた。 「ごめん、待たせちゃった?」 学生時代から続く、待たせたときのスバルの一言。 なら、自分は―― 「待たされたけど、アンタの顔を見たら怒る気も失せたわよ」 笑顔で、ティアナは言葉を返してやった。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1741.html
「……なるほどな。話は分かった」 私達は今、杜王町の郊外で承太郎さんと向かい合っている。周囲に人影は無い。 バス停で出会い自己紹介を済ませた後、ここじゃあマズイという承太郎さんに連れられてやって来たのだ。 そこでこちらの調査内容を告げ、返ってきた答えがこれだった。 この数分間で分かったことなのだが、承太郎さんは必要最低限のことしか話さない。 これが意外と厄介だった。普通の人ならただの無口で済むのだが、承太郎さんに無言で見つめられると何だか叱られている気分になってくる。 「それで……その、何か、心当たりはありませんか?」 恐る恐る、といった感じでスバルが聞く。承太郎さんの無言のプレッシャーに耐えきれなかったのだろう。ちなみに私もそろそろ限界だった。 「……おそらく、君達が捜している『違法魔導師』と、俺達が追っている『殺人鬼』は同一人物だろう」 『殺人鬼』。この穏やかな町にはふさわしくない言葉だと思った。 「殺人鬼……」 「そうだ。この杜王町には殺人鬼が潜んでいる。そいつは十五年間誰にも知られる事なく人殺しを続けてきた。 杜王町での失踪者の大半はそいつの犠牲者だ」 データで見た限りでも杜王町の失踪者は五十人以上居たはずだ。その大半は既に、殺されている。嫌な事実だった。 「……そして、君達はそいつを『違法魔導師』だと思っている様だが……おそらくそうじゃあない」 「『魔導師』じゃあ……ない……?」 私達にとっては信じがたい事だが、承太郎さんは何か『確信』を持っているようだった。 「……数日前に、その殺人鬼に殺された少年がいる。名前は矢安宮重清。友人には重ちーと呼ばれていた。まだ中学生だった……」 「……ッ!」 思わず息を飲んだ。私達がやって来るほんの少し前にも人が殺されたのだ。 胸の中に黒いもやもやとした何かが浮かんでくるのが分かる。 承太郎さんは話を続ける。 「……ここからが本題なんだが、『重ちー』はある『特殊な能力』を持っていた」 「『能力』……ですか?」 「そうだ。俺達はその能力の事を『スタンド』と呼んでいる。どんなものかってーのは後で説明する。 この『重ちー』の『スタンド』はかなり強力でな……同じ『スタンド使い』でも勝てるヤツはそうそういないだろう」 この世界では魔法は確認されていないはず。 『スタンド』。魔法ではない謎の能力…… 更に、承太郎さんは“同じ”スタンド使いでも、と言った。それはつまり…… 「『スタンド使い』は何人もいる……ということですか……?」 「そうだ。『スタンド』はある条件を満たせば発現する一種の『才能』だ。才能さえあれば人に限らず犬やネズミすら『スタンド使い』になる」 「承太郎さんは犯人は『スタンド使い』だと考えているんですか?」 承太郎さんはああ、と短く、だが確かな自信を目に宿らせて肯定した。 「で、でも……殺された子が『スタンド使い』だからって、犯人も『スタンド使い』とは限らないんじゃ……」 おずおずとスバルが意見を述べた。まだ承太郎さんに萎縮しているのだろう。もちろん私もビビっている。このプレッシャーには慣れそうもない。 「ああ、その通りだ。それだけでは『スタンド使い』が犯人だと言い切ることはできない。君達の言うように『魔導師』の可能性もある」 「え!?」 あれほど強い口調で断言した割に、承太郎さんはあっさりと認めた。 予想もしていなかった返答にスバルは戸惑いを露にしている。 「……君達にはこれが『見える』か?」 立てた親指で自分の背後を指しているが、何も『見えない』。注意深く見てみてもやはりそこには何も無いように思える。 スバルにも何も見えていないらしく、うんうん唸りながら目を凝らしている。 「その様子じゃ『見えていない』らしいな。……『魔導師』ならもしや、と思ったんだがな。 だが、これで分かったぜ。やはり犯人は『スタンド使い』だ」 もしこれがマンガなら私達の頭の上にはクエスチョンマークが三つほど並んでいることだろう。 承太郎さんは何か納得したらしいが私達にはサッパリ分からない。 「話していなかったが、俺も『スタンド使い』だ。そして今俺は『スタンド』を……『スタープラチナ』という名前だが、発現させている」 「え!? でも何も……!」 スバルは言いかけて気付いたようだった。承太郎さんは『見えるか』と尋ねた。それはつまり、『見えない者』がいるということ。 「『スタンド』は『スタンド使い』にしか見ることは出来ず……そして『スタンド』は『スタンド』でしか倒せない。 ……後者についてはまだ分からないがな。魔法でなら倒せるかもしれん。 だが、『スタンド』が見えないヤツに重ちーが負けるとは思えない。殺人鬼は『スタンド使い』! これは間違いないだろう……」 「犯人について分かっていることは『三つ』! 性別は男・スゴ腕のスタンド使いである・今も杜王町に潜んでいる! これだけだ。犯人は十五年間この町で殺しを続けている……他の町へ逃げたりはしないはずだ…… だからこそ、犯人を追い詰めることができる!」 そう言った承太郎さんは、コートのポケットから何かを取り出した。 「この『ボタン』は遺言だ……『重ちー』が最後の力で届けた、唯一の『証拠品』。 今はこいつの聞き込み調査を行っている。 ……だが、どうにも人手が足りなくてな。時間が掛かっている。君達にも協力してもらいたいんだが……頼めるか?」 「は、はいっ!」 先に答えたのはスバルだった。少しばかり声が上擦ってしまっていたが、『絶対に殺人鬼を捕まえる!』という決意が伝わってきた。 こういう時に恐れず、迷いなく自分の正義を貫こうとするスバルを羨ましく思う。 正直に言えば、私は少し恐かった。JS事件を経て、成長したという自覚はある。 それでも、得体の知れない能力を持った殺人鬼を私は恐れているのだ。……いつまでも変われない自分が嫌になる。 だが、怯えていたのでは仕事にならない。恐怖を押し殺して返事をする。 「……大丈夫です。任せてください」 スバルには気付かれたかもしれない。あの娘は妙に敏感なところがあるから。 「ン……そう言ってもらえると助かる。 ホテルに部屋を取ってある。杜王町にいる間はそこを自由に使ってくれて構わない。 それと……これは捜査協力者のリストだ。何か分かったらそいつらにも教えてやってくれ。 聞き込みは明日から始めてくれればいい。 俺はちとヤボ用があるんでな……今日はこれで失礼させてもらうぜ」 承太郎さんが去ってからも、私はそこから動けなかった。 「……今日はもうホテルで休もっか? 承太郎さんも明日からでいいって言ってたし。ね、ティア」 「ゴメン、先に行ってて……ちょっと一人で考えたいの……」 気を使ってくれたようだったが、今はそれが辛かった。 「ティア……」 「大丈夫……大丈夫だから……お願い」 スバルはそれ以上何も言わずに立ち去った。時折心配そうにこちらを振り返っていたが、気付かないフリをした。 「何やってんだろ、私……」 心の中に立ちこめた暗雲は、しばらく晴れそうになかった。 TO BE CONTINUED 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/a_nanoha/pages/65.html
Characters ヴォルツ・スターン 年齢:36 所属:港湾警備隊防災課・特別救助隊 階級:防災司令 港湾警備隊の防災司令でスバルの上司。防災課の現場を取り仕切る前線指揮官。 かつては防災士として前線に出ていた現場経験者。 指揮官であり兄貴分として、港湾警備隊の若手からは信頼されている。 ルネッサ・マグナス 年齢:18 所属:フォルス地上本部法務局 階級:鑑識官/執務官補佐 ティアナの臨時補佐官として、2ヶ月前から共に「マリアージュ」事件を追っている鑑識官。 極めて真面目な性格で、仕事は的確、それ故、ティアナからの信頼は厚い。 高町ヴィヴィオ 年齢:9 所属:St.ヒルデ魔法学院初等科/高町家長女 役職:初等科3年生/無限書庫司書 「元機動六課の戦技教導官・高町なのは」のひとり娘(養女)。 明るく人見知りしない性格で、機動六課メンバーやその関係者たちとの縁は深い。 本好きが高じて、無限書庫の司書資格を取得している。聖王家の血を保有する「聖王陛下」でもあるが、 本人は(特殊な必要のあるときを除いて)ごく普通の初等科3年生として過ごすことを望み、実際にそうしている。 ナンバーズ「ナカジマ家4姉妹」 JS事件の加害者であり、視点によっては被害者でもある「ナンバーズ」。 罪を償い、事件捜査に協力した7人はそれぞれ更生のための道を歩んでいる。 そのうち4人は、スバルの父であるゲンヤ・ナカジマに引き取られ、スバルとギンガの姉妹となった。 なお、姉妹の順序は家族会議の結果、ギンガ→チンク→ディエチ→スバル→ノーヴェ→ウェンディの順となっており 各自の「年齢」もそれに合わせて決定されている。 チンク・ナカジマ 登録年齢19歳。元ナンバーズNo.5。 爆発物を扱う技術を持つ。小柄な少女のような外見だが、落ち着いた性格で妹たちのまとめ役。 ノーヴェ・ナカジマ 登録年齢16歳。元ナンバーズNo.9。 スバル・ギンガとは実際の血縁。素直でないが、まっすぐな性格。スバルと近似したスキルを保有している。 ディエチ・ナカジマ 登録年齢18歳(スバルより半年先生まれと設定)。元ナンバーズNo.10。 「4姉妹」の中ではチンクに次ぐ年長者。穏やかな性格の砲撃手。 ウェンディ・ナカジマ 登録年齢16歳(ノーヴェの翌月生まれと設定)。元ナンバーズのNo.11。 果てしなく明るい性格の持ち主。ノーヴェの相棒で、スバルは勿論ティアナとも仲良し。 旧機動六課メンバー アルト・クラエッタ 元機動六課のヘリパイロットリザーバー。地上本部での正規採用後、今年から陸士108部隊に異動。 スバルよりも局員としては先輩だが、同階級だったこともあって機動六課時代から対等に仲良し同士。 ヴァイス・グランセニック 元機動六課のヘリパイロットで、現在は地上本部に所属。 機動六課時代はアルトやティアナの先輩であり、狙撃銃型デバイス「ストームレイダー」を手に狙撃手としても活躍する。 陸士108部隊 ギンガ・ナカジマ 20歳。スバルの姉で、陸士108部隊の捜査官。階級は准陸尉。 捜査官として、ナカジマ家の長姉として、公私共に忙しい日々を送っている。 ゲンヤ・ナカジマ 陸士108部隊の部隊長で、階級は三佐。 プライベートではナカジマ家の家長であり、6人の娘たちを見守りつつ日々を過ごしている。 聖王教会・カリムとシャッハの下で保護されている3名。一同揃っての記念写真は、カリムのデスクにも飾られている。 カリム・グラシア 聖王教会騎士。稀少技能保有者であり、教会騎士団の重職に就いている。オットー・ディードの保護者。 シャッハ・ヌエラ カリムの秘書にしてボディーガードを務める、シスターにして修道騎士。教育好きで、やんちゃ者をしつけるのが得意。 セイン 元ナンバーズのNo.6。シャッハの保護の下、修道騎士兼シスターとして修行中。 ハードな巡礼紀行さえなければ、教会暮らしは肌に合う様子。 オットー 元ナンバーズのNo.8。現在は執事としてカリムに仕えている。 カリムの秘書および護衛役として、カリムやシャッハも信を置いている。 ディード 元ナンバーズのNo.12。聖王教会のシスターとして教会入り。修道騎士としてもシスターとしても、将来を期待されている。 アギト JS事件の関係者の1人で、ルーテシアとは当時からの友人同士。 現在は元機動六課ライトニング隊副隊長・シグナムの融合騎として、また八神家の一員として、温かな居場所を得ている。 ルーテシア・アルピーノ JS事件の加害者にして被害者。長い保護観察期間をほぼ無人の辺境世界マウクラン(宅地開発区画)で過ごしている。 更生組のナンバーズ一同やエリオとキャロ、ヴィヴィオとも仲が良い。 JS事件の首謀者とその協力者たち。 軌道拘置所にて拘置されている。なお、欠番のNo.2はJS事件の渦中に死亡している。 ジェイル・スカリエッティ JS事件の首謀者であり黒幕。天才技術者でありナンバーズたちの生みの親。 ウーノ ナンバーズのNo.1。スカリエッティの秘書であり、公私共に彼を支えてきた存在。 トーレ ナンバーズのNo.3。地上に降りたチンクら妹たちのことを気にかけつつも、捜査非協力の態度を貫いている。 クアットロ ナンバーズのNo.4。多数の秘密と情報を抱え、いまだ復帰を目論む重要危険人物として、 厳重な監視下に置かれているが、本人はどこ吹く風とばかりに平然と拘置所での日々を過ごしている。 セッテ ナンバーズのNo.7。本事件には未登場。事件への関与度合いは上記4人と比較すれば薄いため、 担当者からは更生に向けた働きかけが行われている。